【日本民法】条文総まくり

旧民法から現行民法まで。1条ずつ追いかけます。

財産編第28条【取得時効にかかる物・かからない物】

物ハ法律ニ定メタル条件ヲ具備スル占有ニ付著セル取得ノ推定ヲ受クルト否トニ従ヒテ時効ニ罹ルコトヲ得ルモノ有リ時効ニ罹ルコトヲ得サルモノ有リ*1

 

【現行民法典対応規定】

なし

 

今村和郎=亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之一』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

133 「時効」とは、「時の効力」という意味です。かつてはこれを「期満得免」といっていました。例えば、不動産を30年間占有すればその不動産の所有権を取得します。これを「不動産が時効にかかる」といいます。「時の経過という効力によって取得する」という意味です。証拠編の時効の部分に詳細が規定されています。

 そもそも時効により物の所有権を取得するには、必ずまずこれを占有しなければなりません。占有するには種々の要件があり、これは法律で定められています。占有者がこの要件を具備すれば、法律によりその物はその占有者の所有に属します。これを「法律の推定」といいます。要件を具備して物を占有する者は、その物を買い受けたか、譲り受けたか、そのほか適当な手続でその物を取得したに違いないと推測して、所有権がその占有者に属すると推定するのです。いわば物が時効にかかるようなものです。これを「取得の推定が占有に付着」するといいます。

 どのような物でも占有して法律上の要件を具備すれば必ず時効にかかるのでしょうか。そうではなく、時効にかかる物とかからない物とがあります。時効にかからない物につては、たとえ法律に定めた要件を具備する占有があっても取得が推定されません。これが本条の趣旨です。

 

134  総則の各条で物の区別をする場合には必ず事例が示されていますが、本条では事例が示されていません。私はそれがなぜか知りません。ここで試しに事例を挙げてみましょう。

 「時効にかからない物」とは、例えば第25条の公有物、第26条の不融通物をいいます。これらの物はどのような方便を用いてもその所有者を変更することができません。そのため、どのような要件を具備して占有しても時効にかからないものです。

 しかし、「時効にかからない物」はすべて不融通物というわけではありません。例えば、不継続地役と不表見地役がこれに当たります。これらはもともと融通物ですが、時効でこれを取得することはできません(第276条で詳しく説明します)。そのため、「時効にかからない物」と不融通物とはおのずから区別されることになります。

 また、「時効にかからない物」と「譲渡することができない物」とは同じではありません。例えば、使用権・住居権は、第27条により「譲渡することができない物」とされていますが、時効にかかります。華族世襲財産も譲渡することができませんが、時効にかかるものです。フランスでは、嫁資不動産を、譲渡することができないが時効にかかるものとしています。

 以上の物を除くほかはすべて時効にかかるものです。要するに、時効にかからないものは例外で、時効にかかるのが原則です。

 

135 時効には2つの考え方があります。時効は売買交換のように財産を取得する1つの方法であるという考え方、人が物を長く占有するのは別に占有する正当な原因があり、時効はそれを推定にすぎないという推定説です。日本民法はこの第2の説を採用しました。この2つの説の差異・当否については第43条で説明します。

*1:物が取得時効にかかるものであるかどうかは、法律に定めた条件を具備する占有に付着する取得の推定を受けるかどうかによって定まるものとする。