【日本民法】条文総まくり

旧民法から現行民法まで。1条ずつ追いかけます。

財産編第52条【天然果実①】

1 天然ノ果実ハ自然ニ生シタルト栽培ニ因リテ得タルトヲ問ハス土地ヨリ之ヲ離シタル時直チニ用益者ニ属ス縦令事変又ハ盗奪ニ因リテ離レタルモ亦同シ*1

 

2 然レトモ果実カ其成熟前ニ土地ヨリ離レ且用益権カ通常ノ収取季節前ニ消滅シタルトキハ其利益ハ虚有者ニ帰ス*2

 

【現行民法典対応規定】

89条1項 天然果実は、その元物から分離する時に、これを収取する権利を有する者に帰属する。

 

今村和郎=亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之一』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

247 本条は、天然の果実について規定するものです。

 用益権の継続中については前条に規定があり、用益者は所有者と同様に収益すると定めています。そこで、土地に生じた果実はその土地に付着する時からこれを用益者の所有物とすべきか、その所属の時期分界を定めることが必要です。民法はこれを定めるのにある時期を設けて所属の分界を立てています。つまり、果実が土地から離れる時がそれで、用益権の継続中はいったん果実が土地から離れれば用益者に属するとしています。例えば、米麦はなお田土に立っている間は用益者に属しませんが、これを刈り取れば直ちに用益者に属します。既にこれを刈り取った場合には、なおこれを田土に置いてまだ取り入れていないときでも用益者の所有物となることを妨げません。これが果実の所属を定める原則です。そのため、果実がまだ土地から分離しない時に用益権が消滅すれば、その果実は虚有者に属します。

 そもそも果実は根枝によりなお土地に付着している間は土地と一体となり、土地とともに不動産となります。これについては第8条が規定しています。それがなお不動産である間は不動産の所有者に属し、用益者に属しないことはもちろんです。いったん土地から分離した場合には、その性質を変じて動産となり、収益物となるので、用益者に属します。

 

248 原案本条第1項の説明に、土地から分離する時期を果実の所属の分界とし、その成熟とは関係しないという理由が掲げられています。「そもそも果実の成熟は気候の寒暖・栽培の方法・物の種類によって異なるものであり、もし成熟したかどうかによりその所属を異にすることとすれば、実際にこれを行うのは非常に困難である」と。

 果実の所属はそれが成熟したかどうかによりこれを区別することが至当だと考えられます。しかし、原案の説明にあるような困難があります。かつ、用益権はもともと射倖の性質を有するもので、本条第1項の規定は妨げられないものです。実際にはかえって便宜があるといえるでしょう。

 本条では、果実が土地から分離したかどうかによりその所属を異にすることを定め、土地から分離すれば、用益者がこれを収取したものだろうと、台風自身のような変災によって分離したものだろうと、盗人の行為によるものだろうと関係なく、すべて土地から分離することにより用益者に属するとしています。この点は西洋の民法が明瞭さを欠いているところなので、日本民法は特にこれを明言したものです。また、本条は、自然生と栽培によって生じたものかどうかを問わず、すべて土地に生じた果実について規定しています。

 

249 用益権の消滅と果実の成熟前に土地から分離することについては、何らの関係もなく、すべて本条第1項の原則を適用して果実の所属を定めるべきでしょうか。本条第2項はこの問題に次のように答えています。

 そもそも果実が成熟前に土地から分離しても、用益権がその収取季節に至るまで継続する場合には、その果実は当然用益者に属すべきもので、問題が生じることはありません。用益権がその収取季節前に消滅したと仮定して、その果実が収取季節に至るまで土地から分離しなければ、当然虚有者に属すべきものです。そのため、この果実が成熟前に土地から分離し、用益権がその収取季節前に消滅した場合には、その果実は虚有者に属します。この場合に果実を用益者に属させれば、用益者は不当の利益を得ることとなるからです。

 この場合には虚有者は用益者に対して果実回復の物上訴権を有します。既にこれを消費した場合には、その賠償の対人訴権を有します。

 

250 略(論説)

*1:天然の果実は、自然に生じたもの又は栽培により得たもののいずれであるかを問わず、土地から分離した時に直ちに用益者に帰属する。事変又は盗奪によって分離したときも、同様とする。

*2:前項の規定にかかわらず、果実がその成熟前に土地より分離し、かつ、用益権が通常の収取季節前に消滅したときは、その利益は虚有者に帰する。