【日本民法】条文総まくり

旧民法から現行民法まで。1条ずつ追いかけます。

財産編第63条【用益地に石坑がある場合】

1 用益地ニ既ニ採掘ヲ始メ且特別法ニ従フヲ要セサル石類石灰類其他ノ物ノ石坑アルトキハ用益者ハ従来ノ所有者ノ如ク其収益ヲ為ス*1

 

2 右石坑ヲ未タ採掘セス又ハ其採掘ヲ廃止シタルトキハ用益者ハ其用益物中ノ建物牆壁其他ノ部分ノ大小修繕ニ必要ナル材料ノミヲ採取スルコトヲ得但其土地ヲ損傷セス且第六十条ニ記載シタル如ク予メ其必要ヲ証スルコトヲ要ス*2

 

3 又用益者ハ前二項ノ区別ニ従ヒ其用益地ノ泥炭及ヒ肥料土ニ付キ収益スルコトヲ得*3

 

【現行民法典対応規定】

なし

 

今村和郎=亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之一』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

280 鉱物については、特別法があり、これを支配しています。つまり、日本坑法です(明治6年7月第259号布告)。

 日本ンでは、鉱物を国有とし、各人が私有することを認めていません。そのため、種々の規定がなされており、民法の普通の規定によらないものもあります(第33条参照)。これにより、本条にはすべて特別の支配を受ける鉱物を除き、そのほかの各人の私有に属し、自由に採掘することができる石坑の収益について規定しています。つまり、石灰石・大理石・花崗石の類がそれです。

 

281 特別法に従うことが必要な鉱物についても用益権を設定することができないというわけではありません。ただし、この種の鉱物については、用益者は特に官の許可を得ることが必要です。そのため、民法にはこれを掲げないこととしました。

 日本では、鉱物は地表の所有権とまったくの別物で、これを国有とし、地表の所有権を売買・譲与しても、またこれに用益権を設定しても、すべて地下の鉱物とは関係がありません。そのため、地表に用益権を設定した場合に鉱物にもあわせて設定されるかどうかという問題が生じることはありません。そうすると、鉱物はもちろん民法の本条とは関係がありません。しかし、本条第1項に特別法云々の数字が掲げられたのは、鉱物もあわせて本条の支配するところとなるおそれがあります。

 

282 石材もまた一種の産出物で、これを包含する土地を有する者の収益の1つとなります。そのため、その土地に用益権を設定した場合には、用益者はその石材を採掘して収益する権利を有することはもちろんですが、所有者が既に開坑し採掘した場合に限ります。これは前の数条で樹林について規定されているのと同一の理由によるもので、用益者は収益すべき物でなければ収取することができません。まだ開掘されていない石坑については、石材は土地と合体して収益物とはなりません。そのため、用益者はこれを採掘することができません。既に採掘を始めた石坑に用益権を設定した場合には、採掘の利益を用益者に得させる意思が所有者にあるものと推測されるからです。用益者が採掘するには、所有者の行う慣例に従わなければなりません。

 所有者がいったん開坑してもこれを廃坑した場合には、まだ開坑していないのと同一の情況となり、用益者はさらにこれを開坑することはできません。所有者がまだ開坑していない場合や、既に開坑したもののこれを廃閉した場合にその土地に用益権を設定したときは、石材を用益者の利益とする意思がないものと推測されることに基づくものです。

 しかし、用益物を修繕する必要が生じた場合には、その用益地内にある石材をこれに充てることができます。ただし、石材を採掘するためにその土地を損傷することは許されません。この用心は、第60条には掲げられていません。樹林と土地とでは状況が異なるためです。

 泥炭・肥料土もまた一種の産出物です。そのため、石坑の石材と同一の規則に従います。本条に「前2項の区別に従う」とありますが、泥炭は燃焼の用をなすもので、もともと第2項の修繕に用いるべき物品ではありません。そのため、所有者がこれを開掘していない場合や、いったん開掘したものを廃止した場合には、用益者はこれを採取することができません。肥料土もまた修繕をする物品ではありません。

 

283 本条では石材の類を用益物の修繕のために使用することを認めていますが、これを改良するために使用することは認めていません。修繕は物を保存するという事為であり、つまり用益者の義務に属するものです。善良な管理人は、本条にいうような場合には、必ず石材を他から買い求めるわけではありません。そのため、民法は、用益者に本条の権利を許与したのです。その改良のために使用することが許されないのは、そもそも改良は人々によって見込みが異なるもので、費用に相応する利益を得られないことも少なくありません。また、たとえ利益を得られたとしても、その利益は用益者だけに帰し、用益権が係属する間は虚有者に利益をもたらすものではありません。そのため、民法は改良のために石材を使用することを許さないこととしたのです。

 

284 略(論説)

*1:用益地に、既に採掘を始め、かつ、特別法に従うことを要しない石類、石灰類その他の物の石坑があるときは、用益者は従来の所有者と同様に収益をすることができる。

*2:前項に定める石坑を未だ採掘しないとき、又はその採掘を廃止したときは、用益者はその用益物中の建物、牆壁その他の部分の大小修繕に必要な材料のみを採取することができる。ただし、その土地を損傷してはならず、かつ、第60条に定めるようにあらかじめその必要を証明しなければならない。

*3:用益者は、前2項の区別に従い、その用益地の泥炭及び肥料土について収益をすることができる。