【日本民法】条文総まくり

旧民法から現行民法まで。1条ずつ追いかけます。

財産編第26条【融通物・不融通物】

1 物ハ私ノ所有権又ハ債権ノ目的ト為ルコトヲ得ルト否トニ従ヒテ融通物タリ不融通物タリ*1

 

2 公ノ秩序ノ為メ法律ニ於テ処分ヲ禁シタル物及ヒ公有ノ財産ハ不融通物ナリ*2

 

【現行民法典対応規定】

なし

 

今村和郎=亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之一』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

126 「融通物」とは「輾転流通しうる物」という意味です。例えば、土地・金銭その他の器物で各人が特有することができる物は、各人相互に売買・交換することができます。つまり、世の中に流通する物です。そのため、本条では「私の所有権の目的となる」云々とするのです。

 契約で授受を約する場合には、与える義務と与えさせる債権を生じます。必ずその目的とする物があります。このように契約で債権の目的とすることを法律で禁じられていないものは、すべて「流通する物」です。

 「私の所有権の目的となることができない物」とは、第22条に掲げた物(公有物)の類です。各人はもとよりこれを所有することができません。公の法人でもこれを私有物として所有することができません。公の法人がこれを契約の目的物としようとする場合には、まずその公有の性質を脱させることが必要です。そのため、私の所有権となることができない物は、すべて「融通しない物」です。

 「債権の目的となることができない物」とは、第22条に掲げた物はもちろん、そのほか爵位・勲章、代言人の免許権のようなものです。免許権はこれを私有することができますが、売買・交換その他の方法でこれを授受することができません。そのため、債権の目的となることができません。これもまた不融通物です。

 契約で不融通物を目的とした場合には、その契約は無効となり、これを履行しないために生ずる損害があっても、その賠償をする責任は生じません。これが融通物・不融通物の区別を必要とする理由です。

 「公の秩序のため処分を禁じた物」とは、例えば、爵位・勲章の類をいいます。この中には「私の所有権の目的となることができる物」がありますが、すべて「債権の目的とすることができない物」です。

 このほか法律で売買を禁じた物があります。例えば、軍器・春画です。これもまた不融通物です。

 以上の物以外の物は、すべて融通物です。

*1:物が融通物であるか不融通物であるかは、私人の所有権又は債権の目的となることができるかどうかによって定まるものとする。

*2:公の秩序のため法律において処分を禁じられた物及び公有の財産は、不融通物とする。