公ノ法人ニ属シ国用ニ供シタル物ハ公有ノ部分ヲ為ス即チ左ノ如シ
第一 国領ノ海及ヒ海浜 但海浜ハ春分、秋分最高潮ノ到ル処ヲ以テ限ト為ス
第二 道路、舟若クハ筏ノ通ス可キ川又ハ堀割及ヒ其床地
第三 城砦、塁壁其他陸海防禦ノ工作物
第四 軍用ノ工廠、船艦、兵器、機械其他ノ物品
第五 官庁ノ建物*1
【現行民法典対応規定】
なし
今村和郎=亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之一』(明治23年)
※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。
115 公の法人に属し、国家の公用に供する物は公用物です。そのため、公有物はむしろこれを公用物というほうがよいでしょう。
国家公用の目的は、国の防御、国人の交通・施政に必要なことで、すべて国人公共のためのものです。第1号以下の例の通りです。
この種の物は、これを管理するのにそれぞれ法律規則があり、他の財産のように授受・貸借などをすることができないのを通則とすることは、前条の説明で述べた通りです。
116 第1号 「国領の海」とは、日本に属する沿海です。品川海・瀬戸海のように海口を防御することができるものは、すべて日本に属します。そのほか大洋に面する部分もまた日本に属します。その日本に属する分界については、古くからさまざまな説があります。海岸より2日程を限りとするとか、100里とか30里ともいわれています。今日では陸に備えた大砲の弾が達するのを限度とする説もあります。これらはすべて国家公共の用に供するものです。
海浜については、春秋大潮のころに潮水が到達するところから海に至る間を公有地とします。そのため、この間の土地はこれを私有することができません。
第2号 大道はもとよりすべて公有です。これらは公共の用に供されるものだからです。
鉄道はどうでしょうか。鉄道もまた公共の用に供するものです。そのため、これを公の公有物とします。
私設鉄道については、異論があります。
鉄道はその官設私設を問わず、すべて公益を主旨として設けたものです。公益の性質がないとすれば、私設鉄道はもとより成り立ちません。また、公益のない事業は決して官ではこれを起こしません。この点から論じれば、私設鉄道でも公共の用に供するという性質は同じです。私設鉄道の敷地は私立会社に属します。つまり私の資産です。そのため、その性質には疑問が生じます。私は、土地と道路とを混同してはならないと考えます。土地は物料です。道路は名で外形です。例えば、石を重ねて家屋を作った場合には、石は物料で、家屋は名目つまり形です。私設鉄道の敷地つまり物料の一部は誰かに属しても、その形である道は公共に属し、私立会社もこれを任意に変更することはできません。そのため、形は公有物です。より詳しく言えば、私の資産に公有の形を施したもので、その形は私の資産ではないのです。
河川・掘割については、民法は舟筏が通るかどうかで公私を区別するのを通則とします。しかし、本号は事例を示すにすぎません。特にわが国では従来さまざまな慣行があります。この事例により、従前各人所有の証あるものをも公の公有とするわけではありません。すべて事実について公私の所属を定めることが必要です。ここにはただ通則を示し、公共の用をなすものをいうだけです。
第3・第4・第5の各号 すべて国の公用に供するものを掲げています。主として工作物・建物を指していますが、その敷地をあわせて公有物とすることはもちろんです。
117 本条では、第1項に「国用に供し」とし、そこに掲げる事例を見ると、多くは一国全般に関する物です。そのため、一国全体に関しないもの、つまり府県以下市町村の公用に供した物は何の種類に属するのかという疑問を生じます。特に次条に府県云々とあって、本条ではそれがないので、この疑問はいっそう大きなものとなります。
第21条では、公の法人に属する物には公有私有の区別があるとしています。公の法人とは国・府県・市町村等であることは、本編第1条その他すべての法律でも認めています。民法が府県以下を本条の公の法人の中に加えないという考え方ととるのなら、必ずこれを明言しなければなりません。その明言はありませんので、察するにもとより府県以下の法人を除かないことは明らかです。そのため、本条第2号の道路は必ずしも国有のものだけではなく、府県・市町村有のものもまたその中に含まれます。そのほかにも府県の公有物はたくさんあります。地方税で作り、府県の公用に供した物はすべてそうです。市町村でもまたこの類のものがたくさんあります。本条に「国用に供し」とあるのは必ずしも「全国の用」という意味ではありません。その掲げる事例は、ただ著しい物のみを示したにすぎないのです。