【日本民法】条文総まくり

旧民法から現行民法まで。1条ずつ追いかけます。

財産編第27条【譲渡可能な物・譲渡不可能な物】

1 物ハ譲渡スコトヲ得ルモノ有リ譲渡スコトヲ得サルモノ有リ*1

 

2 所有権ヨリ支分シタル使用権又ハ住居権、要役地ヨリ分離セルモノト看做シタル地役及ヒ政府ノ与ヘタル開坑ノ特許其他ノ特権ハ概シテ融通物ナリト雖モ譲渡スコトヲ得サルモノナリ*2

 

【現行民法典対応規定】

なし

 

今村和郎=亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之一』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

127 「譲渡することができない物」は、すべて法律の規定でそのようになっている物です。本条第2項に「譲渡することができない物」の事例が示されています。まず順にこれを説明しましょう。

 「所有権から支分した使用権又は住居権」とは何でしょうか。

 使用権とは「物を使用する権利」で、所有権の一部です。住居権とは「家屋に住居する権利」で、これも所有権の一部です。住居権は家屋の使用権にすぎません(第2条参照)。

 物の所有権については、所有の全権を他人に譲渡することができるのはもちろんです。また、その全権から分離してその物を使用する権利だけを他人に譲渡することもできます。このように分離して譲渡した場合には、これを「所有権から支分した使用権」といいます。また、家屋の所有者がこれに住居する権利だけを分離して他人に譲渡した場合には、これを「所有権から支分した住居権」といいます。この場合には、所有権に残存するものは不完全なものとなります。これを「不完全所有権」といいます(第2条参照)。

 本条にいう「支分した使用権又は住居権」とは、上にいうような「所有の全権から分離して独立させた使用権又は所有権」をいいます。法律は、このように分離した使用権・住居権を元の所有者に譲り戻すことを許していますが、その他の人にこれを譲渡することを禁じています(第113条参照)。

 使用権・住居権が所有の全権と合併している場合、つまりまだ支分しない場合には、これを譲渡することができます。ただ、一度他人に譲渡してこれを支分した場合には、譲渡することができない物となります。

 

128 「要役地から分離するものとみなす地役」とは何でしょうか。

 例えば、隣接するA・B2個の地所があってAとBの所有者が異なっているとします。A地に入るには必ずB地を通行しなければなりません。この場合にはA地の所有者はB地を通行する権利を有します(通行により生ずる損害はもとよりこれを賠償しなければなりませんが、B地の所有者はこの通行を拒むことができません)。これを「通行の地役権」といいます。この例ではA地を要役地といい、B地を承役地といいます。このほかにも種々の地役がありますが、必ず2個の土地があってその所有者を異にするものでなければ、地役は成立しません。

 地役権は、上の事例のように必ず要役地に属するものです。要役地の所有者はこれを承役地の所有者に譲り戻すことができますが、要役地と分離してその他の人にこれを譲渡することはできません。これは第267条の禁止するところです。このように要役地の所有者が承役地の所有者に地役を譲り戻さずに他人に譲渡することを、本条では「要役地より分離するものとみなす地役」といいます。要役地の所有者がその土地の所有権とあわせて地役を譲渡しても、法律はこれを禁じていません。要役地より分離していないからです。

 上の事例で、まだ地役を設定していない時にB地の所有者は通行権を甲地の所有者に付与することができます。これは要役地から分離するわけではなく、要役地に付属させるもので、法律の禁じていないところだからです。

 

129 「開坑の特許」とは、鉱物採掘の特許で、政府が許与するものです。その特許権つまり採掘権はこれを他人に譲渡することができません。これがわが国の坑法の定めるところです。民法はこれを引いて一例を示すだけです。

 そもそも鉱物を採掘するには大いに資本を要するだけでなく、学術その他種々の条件を要するので、免許を受けた者は自在にその権利を他人に譲渡することができません。そのほか特許とは、例えば銃砲売買免許権です。これもまた法律上種々の制限を設けて、自由に譲渡することを禁じています。自由に譲渡することを許すと、行政上の取締りの目的を達することができないからです。

 このほかにも譲渡することができない物がたくさんあります。例えば、第25条に掲げた公共物はすべて譲渡することができない物です。年金権も設定者がこれを譲渡することができないものとすることができます(財産取得編第175条)。華族世襲財産もまた法律の禁令があることにより譲渡することができない物です。将来制定される法律で譲渡することができない物を定めることもあるでしょう。例えば嫁資不動産です。フランス民法は既にこれを譲渡することができないものとしています。このほか法律や人の意思で譲渡を禁じない物はすべて譲渡することができるものです。

 

130 物の譲渡を禁じれば、必ずその改良を妨害することになります。一家の財産の譲渡を禁じてその富を永続させれば、必ずその家の子弟を怠惰にさせてしまいます。物の譲渡を禁じるのは社会の経済上・進歩上大きな不利となるでしょう。そのため、やむをえない理由がなければ、物の譲渡を禁ずる法律を定めることはできません。また、たとえこれを定めても必ず多少の制限を設けて弊害を防ぐことに注意しなければなりません。

 

131 不融通物と譲渡することができない物とを混淆してはなりません。物が不融通である理由と、譲渡することができない理由とは完全に同じではありません。

 不融通とする理由は2つあります。1つは物の性質によるもの、もう1つは社会の秩序によるものです。そのため、「性質による不融通物」と「法律の規定による不融通物」との2種類があります。

 「性質による不融通物」とは、例えば爵位・勲章や代言人の免許権です。その人に限り属するもので、その人を代えることができないという性質に基づくものです。

 「法律の規定による不融通物」とは、例えば大砲です。普通にこれを売買することが禁じられていますが、これは乱暴を未然に防ぐ趣旨です。また春画も同様にその売買が禁じられています。これは風俗を維持しようとする趣旨です。そして、その性質は誰にも属することができるものです。ただ法律の規定があるために、輾転授受することができないのです。

 物を譲渡することができない理由については、これを有する者の利益・これを譲渡した者の利益を保護することを目的とするものがあります。またあわせて社会の経済上の利益を保護することを目的とするものもあります。すべて法律の規定によるものです。

 例えば、年金権・使用権・住居権は、多くはこの権利を有する者のためにこれを設定するもので、自由にこれを譲渡することを許せば、これを設定する趣旨に背くことになります。そのため、法律はこれを有する者の利益のために特にその譲渡を禁じているのです。

 地役権を設定すると、承役地はその所有権を欠くこととなり、万事につき不便が少なくありません。特にその価格を減少させ改良を妨げるので、法律はその欠缺を復旧させることを期しています。所有者の利益のためにその譲渡を禁じているのです(第267条)。

 「開坑の特許」は、起業者の資力その他の事項を観察して許可するものなので、起業者の資力・人物等がどうであるかが大きく影響します。そのため、法律は自由にその免許権を譲渡することを禁じています。これもまた許可者つまり国の利益のためにその譲渡を禁ずるものです。

 要するに、不融通物はすべて「譲渡することができない物」です。つまり、爵位・勲章のようなものです。そして、「譲渡することができない物」は不融通物ではありません。つまり、使用権・住居権のようなものは、所有者からはこれを譲渡することができ、またいったん譲り受けた者は、これを所有者に譲り戻すことができます。

 

132 略(論説)

*1:物には、譲渡することができるものと譲渡することができないものとがある。

*2:所有権より支分した使用権又は住居権、要役地より分離したものとみなす地役及び政府が与えた開坑の特許その他の特権は、融通物であり、譲渡することができない。