【日本民法】条文総まくり

旧民法から現行民法まで。1条ずつ追いかけます。

財産編第29条【差押えの対象となりうる物・なりえない物】

1 物ハ其所有者ノ債権者カ強制売却ヲ請求スルコトヲ得ルト否トニ従ヒテ差押フルコトヲ得ルモノ有リ差押フルコトヲ得サルモノ有リ*1

 

2 不融通物、譲渡スコトヲ得サル物其他法律ノ規定又ハ人ノ処分ニテ差押ヲ禁シタル物ハ差押フルコトヲ得サルモノナリ即チ無償ニテ設定シタル終身年金権ノ如シ*2

 

【現行民法典対応規定】

なし

 

今村和郎=亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之一』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

136 そもそも債権者はその債務者に属する一切の財産で債務を弁済させる権利を有することが通則です。そのため、債務者が債務を弁済しない場合には、債権者は債務者の財産を差し押さえ、これを売却させることができます。これを「強制売却」といいます。訴訟法第497条以下で強制執行というものがこれです(債権担保編第1条参照)。

 法律が特に規定して差押えを禁じる物があります。衣服・寝具・技術者の技術具、農業者の農具、勲章・証標・実印・神体・仏像、兵卒の給料、扶助料、扶養料のように非常にたくさんあります。

 第26条の「不融通物」と第27条の「譲渡することができない物」は、すべて「差し押さえることができない物」です。差押えの結果は公売となるので、融通輾転し、譲渡することになるからです。

 法律が特に規定して差押えを禁じる物があります。衣服、寝具、技術者の技術具、農業者の農具、勲章、証標、実印、神体、仏像、兵卒の給料、扶助料、養料のように非常に多くあります(財産取得編第169条、訴訟法第570条、第618条)。

 法律の範囲内で各人に任意に差押えを禁じることを認めるものがあります。例えば、忠僕の類に老後に安楽を得させるために終身扶助料を与える約束がなされることがあります。これを「無償の終身年金権を設定する」といいます。このような場合には、設定者つまり給与者がなお将来を確実なものにしようとするため、その年金権を「差し押さえることのできないもの」と定めることができます。これが本条にいう「人の処分により差押えを禁じたもの」です(財産取得編第169条第1項)。

 

137 以上で物の区別についての説明が終わりました。

 原案の説明では、このほか以下の4種類の区別があることが示されています。

  遺失された物・そうではない物、盗取された物・そうではない物

  明確なもの・そうでない物

  ある価格を超過する物・そうでない物

  毀損する物・そうでない物

  「遺失された物・そうではない物、盗取された物・そうではない物」の区別は、時効で必要になることがあります。遺失物や盗み取られた物は、正名義かつ善意の占有者でも動産の時効により即時にこれを取得することができません(証拠編第145条)(明治9年第46号遺失物取扱規則参照)。

  「明確な物」とは、多くは他に対し物を負担する場合の名称です。債務の相殺でこの区別が必要となります。

 債務の成立、その目的物の性質・分量が確実である場合には、これを「明確な債務」といいます(第523条)。

  証拠編第64条によれば、価額50円を超過する訴訟については文書で証明することが定められています。また、裁判所構成法第14条によれば、訴訟の価額100円以下を区裁判所の権限とします。そのため、物の価額がある程度の額を超過するか否かを論じる必要があります。

  「毀損する物」とは速やかに敗損するという意味です。例えば、飲食物です。この種の物は、ある場合には他の「速やかに敗損しない物」と取扱いを異にすることがあります。これがこの区別を必要とする理由です(財産取得編第80条)。

*1:物が差し押さえることができるものであるかどうかは、物の所有者の債権者がその物の強制売却を請求することができるかどうかによって定まる。

*2:無償で設定した終身年金権のように、不融通物、譲渡不可能な物その他法律の規定又は人の処分により差押えを禁じられた物は、差し押さえることができない。