【日本民法】条文総まくり

旧民法から現行民法まで。1条ずつ追いかけます。

財産編第67条【用益者による物上訴権の行使】

1 用益者ハ虚有者及ヒ第三者ニ対シ直接ニ其収益権ニ関スル占有及ヒ本権ノ物上訴権ヲ行フコトヲ得*1

 

2 又用益者ハ用益不動産ノ働方又ハ受方ノ地役ニ付キ自己ノ権利ノ範囲内ニ於テ占有ニ係ルト本権ニ係ルトヲ問ハス要請又ハ拒却ノ訴権ヲ行フコトヲ得*2

 

3 右孰レノ場合ニ於テモ第九十八条ノ規定ヲ適用ス*3

 

【現行民法典対応規定】

なし

 

今村和郎=亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之一』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

289 第36条では、所有権の効力を示すために、所有権に関する訴権が定められていました。我々は、他人の妨害を受けないのであれば、自分の権利を主張する必要はありません。権利を主張する方法は「訴権の行使」です。そのため、訴権は実は権利の主眼で、どのような権利にも訴権があります。訴権には種々の区別があり、権利の中には訴権が生じないものもあります。そのため、各権利について特に規定することが必要な場合があります。本条がその一例です。

 本権訴権・占有訴権・物上訴権・対人訴権の区別は、既に第36条でこれを説明しましたので、ここでは省略します。

 用益者はもともと収益の権利だけを有するので、収益に関しない訴権、例えば所有権を争う訴権を有しません。

 用益者が虚有者に対して行使する訴権は、用益権を占有することを主張する場合には「占有訴権」、真に用益者であることを主張する場合には「本権訴権」です。第三者に対しても同様で、用益権の占有だけを主張するか、真の用益者であることを主張するのかによって区別されます。

 「用益権の占有」とは、例えば用益者として用益権を行使してきた者は用益権の占有者であるということです。そのため、もし他人から異議を唱えられた場合には、真に用益者かどうかを論じずに、単にその占有者としての資格によって訴訟をすることができるわけです。

 本条には、「占有及ヒ本権ノ物上訴権」とあります。「物上」とあるのは、もともと用益権は物権ですし、その訴権はこの物権の作用によるもので、その訴訟の目的は物権だからです。

 特に物上訴権を行使することができる場合には、対人訴権を行使する場合はないかのようにも思えますが、そうではありません。ここには物権である用益権の効力を定めているにすぎないので、対人訴権に言及することはできません。用益者・虚有者間で成立した契約から生ずる対人権については、用益者は対人訴権を行使することができます。また、第三者が用益権に関して用益者と契約をしたり、用益物に損害を加えたりしたようなことがあれば、用益者はその第三者に対し対人訴権を行使することができるのは当然です。

 

290 本条第1項は、用益権そのものに関する訴権について定めています。

 前条にもあるように、用益物が不動産である場合には、これに地役が従属することがあります。つまり、他の土地に対して地役権を有することがあるわけです。これを「働方の地役」といいます。また、他の土地のほうから用益物に地役権を有することもあり、これを「受方の地役」といいます。

 用益不動産に「働方の地役」が従属している場合には、その地役権の行使も、用益者が本分として有する収益権の一部なので、用益者は自分の権利に依拠してその地役権を行使することができます。ただし、用益権は所有権より狭いものなので、所有者とまったく同じように地役権を行使することはできません。地役権について、所有者のように処分権を有するわけではないからです。

 

291 以上、用益権の訴権の概要について説明しました。本条に定められた種々の訴権についてさらに説明しておきましょう。訴権は以下の通りです。

  用益権に係る訴権

  地役に係る訴権

 用益権に関する訴権には、「本権訴権」と「占有訴権」とがあります。

 「本権訴権」は、用益権を他人に奪われた場合にこれを回復するため、自分が用益者であることを主張して訴えるものです。

 「占有訴権」は、用益権の占有を請求する訴えです。これには「保持訴権」と「回収訴権」とがあります。

 用益者が用益権の占有を妨害された場合にその妨害をやめさせようとするものが「保持の訴訟」です。その占有の保持を請求するものです。

 用益者がその用益権の占有を失った場合にこれを取り戻そうとするものが「回収の訴訟」です。

 地役に関する訴権にも、「要請訴権」と「拒却訴権」があります。

 「要請訴権」とは、働方の地役を請求する訴権です。この訴権には、「本権訴権」と「占有訴権」があります。

 その地役権の有無を争う訴訟は、本権訴権の行使によるものです。

 その地役の占有のみを争う訴訟は、占有訴権の行使によるものです。この占有訴権にも、上に述べたような「保持」と「回収」の2つがあります。「保持」は地役権行使の妨害をやめさせようとするもので、「回収」はこの権利を取り戻そうとするものです。

 「拒却訴権」とは、受方の地位を拒却する訴権です。この訴権にも本権と占有の区別があります。

 その受方の地位が存在しないことを主張するのは、本権訴権の行使によるものです。

 その受方地役の占有のみを争うものは占有訴権で、ここにもまた「保持」と「回収」の2つがあります。隣地からやってきて地役を行使するというのを承認せず拒絶するものは、そもそも地役が成立していないということを主張するので、これは保持訴権の行使によることになります。既に隣地からやってきて地役が行使されている場合にこれをやめさせようとするものは、かつての地役が成立していない状況に引き戻そうとするものなので、回収訴権の行使によることになります。

 以上の種々の訴権は、本条により用益者に与えたられたもので、用益者は単独でこれを行使することができます。用益者が単独で提起し、あるいは単独で被告となった訴訟で敗れれば、これは虚有者の権利の消長に関係してきます。用益者が単独で訴訟に敗れた場合にもその結果が虚有者に波及するとすれば、虚有者は不当に損害を受けることになります。そのため、このような弊害を防ぐため、本条3項で「第98条の規定によること」が明示されています。これについては第98条で説明します。

*1:用益者は、虚有者及び第三者に対し、直接にその収益権に関する占有及び本権の物上訴権を行使することができる。

*2:用益者は、用益不動産の働方又は受方の地役につき、自己の権利の範囲内において、占有に係ると本権に係るとを問わず、要請又は拒却の訴権を行使することができる。

*3:前2項の場合にも、第98条の規定を適用する。