【日本民法】条文総まくり

旧民法から現行民法まで。1条ずつ追いかけます。

財産編第4条【著述者等の権利】

著述者ノ著書ノ発行、技術者ノ技術物ノ製出又ハ発明者ノ発明ノ施用ニ付テノ権利ハ特別法ヲ以テ之ヲ規定ス*1

 

【現行民法典対応規定】

なし

 

今村和郎=亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之一』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

28 版権条例(20年勅令第77号)第1条によれば、文書・図書を出版してその利益を専有する権利を「版権」といいます。また、脚本楽譜条例(20年勅令第78号)第1条によれば、演劇・脚本・楽譜を出版する者は、版権条例により版権を所有し、その興行権を有することができます。また、写真版権条例(20年勅令第79号)第1条によれば、写真を発行してその利益を専有する権利を「写真版権」といいます。また、特許条例(21年勅令第84号)第1条によれば、新規に有益な工術機械製造品・合成物を発明した者、工術機械・合成物の新規有益な改良を発明した者は、この条例により特許を受け、その発明物を製作使用・販売する特権を有することができます。

 意匠条例(21年勅令第85号)第1条によれば、工業上の物品に応用する形状模様や色彩に関する新規の衣装を案出した者は、この条例によりその意匠の登録を受け、これを専用する権利を有します。

 商標条例(21年勅令86号)第1条によれば、商標を使用しようとする者は、ある手続をした上で、これを専有する権利を有します。

 以上の版権、興行権、発明物の製作使用・販売の特権、意匠商標の専用権というものは、すべて本条に掲げられた諸種の権利です。

 これらの権利は利益を生ずるもので、この権利を有する者の承諾を得ずに、その著書を出版者や発明物を製作した者は、偽版者・偽造者となって刑に処せられ、権利者に賠償責任を負います。これは人の財物を窃取した者と同様です。そのため、これらの権利が財産であることは、いうまでもなく明らかです。

 

29 この諸権利もまた財産です。これを民法に規定すべきことは当然ですが、本条はこれを特別法に規定することを明言しています。なぜこれを民法に規定しないのでしょうか。

 この諸権利の性質については、西洋でも、所有権だとか、特権だとか、所有権と特権と2種混合したものだとか、学説は一様ではなく、100年経っても一定の説に到達することができていません。そのため、西洋でもこの諸権利に関する法律は各国で異なるものとなっています。わが国でもその性質はもとから確定していないので、立法上これを明示しないのが穏当だというのが第4条の趣旨です。そのため、数多くの法律を制定することが必要なことは、日本の現状を見れば明らかですし、西洋でもまたそうです。また、その法律もどの国でもまだ一定して永続すべきものを制定することはできていません。必ず数年間に一度は多少の改正を行っています。これもまた日本のこれまでを振り返ってみても、西洋の立法の沿革から見ても明らかなことです。また、この種の法律は純然に民法だけに関わるものではありません。他の商法・行政法・刑法などにも関わるものです。そのため、その民法に属する部分だけを民法編入すると、その他の部分は他の諸法に編入せざるをえないことになるので、重複するところも出てきます。その法律を改正するたびに、民法・商法・行政法・刑法を改正する必要も出てきます。これはかなり不便で、むしろこれを特別法とし、各種の権利にはそれぞれ別の法律を設け、それにより立法上の不便を避け、あわせて行政の便宜を図るのがよいといえるでしょう。そのため、民法編入しなかったのです。

 第4条に掲げた諸権利が所有権・特権のいずれになるのかということを定めることは、立法上非常に重要なことです。所有権か特権かによって、立法の趣旨が異なり、保護の程度もまた変わってくるからです。私は、この問題については別に考えがあります。これについては所有権との関係が多いので、以下の所有権の章で詳しく説明します。


30 略(論説)

*1:著述者の著書の発行、技術者の技術物の製出又は発明者の発明の施用についての権利は、特別法で規定する。