【日本民法】条文総まくり

旧民法から現行民法まで。1条ずつ追いかけます。

財産編第126条【賃借人の権利】

第2款 賃借人の権利

 

賃借人ハ賃借物ニ付キ用益者ト同一ノ利益ヲ収ムル権利ヲ有ス但其賃貸借設定ノ契約及ヒ法律ノ規定ヨリ生スル権利ノ増減ハ此限ニ在ラス*1

 

【現行民法典対応規定】

なし

 

亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之二』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

18 第115条では、賃貸借は賃借物の使用・収益をする権利を与えるということを規定しています。使用・収益権を賃借人に与える以上は、賃借人の権利は用益者の権利とほとんど異なるところはないかのようです。本条で賃借人は賃借物について用益者と同一の利益を収める権利を有すると明言することをはばからないのはそのためです。

 しかし、用益権と賃借権とはもともと権利そのものの性質は同じではありません。そのため、その権利を行使する程度についても差異があります。この差異は法律の規定から生ずることもあれば、賃貸借契約から生ずることもあります。本条ただし書はこのことを明示したものです。

 法律の規定から生ずる差異は、次条以下の規定を第49条以下の規定と対照するとよくわかります。賃借人の権利は、用益者の権利より狭かったり、広かったりする場合がありますが、概して広いというべきでしょう。

 賃借人の権利は、賃貸借設定契約でこれを増減することができます。第328条によれば、当事者は、公の秩序・善良の風俗に属さないものについては合意により普通法の規定によらないとすることができ、その効力を増減することができます。そのため、次条以下で賃借人に与えた権利を拡張するのも制限するのも賃貸人・賃借人双方の自由です。拡張・制限の合意は、当事者の間では法律と同じ効力を有する(第327条)ので、双方ともにこれを遵守しなければならないのは当然です。

 要するに、賃借人の権利は用益者の権利と同じということが原則ですが、公益上の理由により法律がその権利を増減することがあります。次条以下の規定がそれです。既に法律の規定があっても、当事者は契約自由の大原則によりこの規定によらないとすることができます。立法者が特別の規定を置かず、また当事者が格段の合意をしなかった場合には、すべて用益者に関する規定に従わなければなりません。

*1:賃借人は、賃借物について用益者と同一の利益を収める権利を有する。ただし、その賃貸借契約及び法律の規定より生ずる権利の増減については、この限りでない。