【日本民法】条文総まくり

旧民法から現行民法まで。1条ずつ追いかけます。

財産編第5条【物の区別】

権利ハ物権ト人権トヲ問ハス目的物ノ種種ノ区別ニ従ヒテ其様ヲ変ス此区別ハ物ノ性質人ノ意思又ハ法律ノ規定ヨリ生ス即チ下ニ掲クル如シ*1

 

【現行民法典対応規定】

なし

 

今村和郎=亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之一』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

31 そもそも権利があれば必ずその目的である事物があります。所有権には土地・家屋・金銭・器物という目的物があります。版権には出版・発売する行為があります。債権には家屋を築造させたり、金銭を払わせたり、労力を使わせたりする目的事物があります。天地間の事物は数多く、それには種々の区別があります。その区別に従って権利にもまた種々の区別が生じます。例えば、土地を目的とする権利は不動産です。器具を目的とする権利は動産です。不動産と動産とで、民法上の規定も違ってくる場合が少なくありません。そのため、本条では、権利はその目的事物の区別に従ってその内容を異にするとされています。「異にする」とは「権利の有様が違う」という意味で、例えばこれを取得したり、引き渡したり、保存したり、行使したりするということなどにつき、種々の区別が生ずることをいいます。

 このように、事物の区別が権利つまり財産に影響を及ぼすので、第6条以下で事物の区別を規定し、民法上の事物の区別をすべて示しています。

 

32 総則で明示されている事物の区別は、次の12類目です。

  有体物・無体物

  移動物・不動物

  主物・従物

  特定物・定量物・集合物・包括物

  消費物・不消費物

  代替物・不代替物

  可分物・不可分物

  有主物・無主物

  融通物・不融通物

  譲渡することができる物・できない物

  時効にかかる物・かからない物

  差し押さえることができる物・できない物

 1つの物が数種類の性質を兼ねることもあります。例えば、家屋は、有体物・不動物・不消費物・不代替物です。物だけではありません。人もまた同じです。例えば、人には男・女の区別、成年・未成年の区別、内国人・外国人の区別があります。1人で男子・成年者・内国人であることがあります。そのため、以上の種々の区別は、その観察するところが異なることから生じるものであることを知っておきましょう。

 

33 事物の区別には3つの原因があります。第1は事物の性質、第2は人の意思、第3は法律の規定です。立法者はその3つの原因に基づいて種々の区別を設けています。人の意思と法律の規定とは、よくこれを調べていくと、事物の性質に帰するものが少なくありません。そのため、ある学者は、人の意思と法律は実は事物の性質を認定するにすぎないものとします。これは多くの場合について言えることで、事物が天然の性質によらない場合があります。例えば、第10条第4号に掲げた財産がそれです。日本にはまだこの制度はありませんが、フランスには既にこの制度があります。例えば、フランス銀行の株券です。その性質は純然たる動産ですが、これに信用を与えるために、これを不動産とすることを認めています。

 以上に掲げた区別の類目に従い、以下でこれを説明します。

*1:権利は、物権又は人権のいずれであるかを問わず、目的物の種類の区別によってその内容を異にする。この区別は、物の性質、人の意思又は法律の規定により生ずる。