【日本民法】条文総まくり

旧民法から現行民法まで。1条ずつ追いかけます。

財産編第69条【用益権の消滅と用益者の権利等】

1 用益者ハ用益権消滅ノ時猶ホ土地ニ付著シテ其収取セサリシ果実及ヒ産出物ノ為メ償金ヲ求ムル権利ヲ有セス*1

 

2 又用益物ニ改良ヲ加ヘテ価格ヲ増シタルトキト雖モ其改良ノ為メ虚有者ニ対シテ償金ヲ求ムルコトヲ得ス*2

 

3 用益者ハ自己ノ設ケタル建物樹木粧飾物其他ノ付加物ヲ収去スルコトヲ得但其用益物ヲ旧状ニ復スルコトヲ要ス*3

 

【現行民法典対応規定】

なし

 

今村和郎=亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之一』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

297 本条第1項は、第50条に照応するものです。最初収益を始めるときは、用益者は根枝により土地に付着する果実を収取し、その耕作・栽培・種子の費用をも虚有者に賠償しなくてもよい権利を有します。ここでは、それとは反対に、土地に付着する果実を虚有者に帰属させ、虚有者はその耕転・栽培・種子の費用を用益者に賠償しなくてもよいことを規定しています。ここで精細に規則を設け、これらの権利の一定・公平を保とうとすれば、用益権の終始ともに差引計算をさせるべきことになります。しかし、この種の計算は非常に困難で、争論の種となることも多いので、立法者は一刀両断の規定を置いたのです。これは民法の新発明ではなく、ローマ以来既に行われてきたものです。また、用益権の性質を考えるともともと射倖的なものなので、本条のような規定を設けることに妨げはありません。

 当事者が本条に定める射倖的性質を除きたいのなら、その設定のはじめに合意によりどのようにも約定することができます。

 

298  用益者は自由に用益物を改良することができます。田地に堤防を設けることや、排水方を施すこと、肥料を加えること、家屋に粧飾をすることなどがこれに当たります。このように改良すると、用益物の価格が増すことも少なくありません。しかし、用益者は用益権の消滅時にその賠償を虚有者に請求することができません。用益者による改良は、もともと自分のためにしたものだからです。また、改良は大小修繕と異なり、用益物に必要なものではありません。そもそも改良に100を費やしてわずかに10の利益しか得られないこともありますし、非常に大きな利益が得られないこともあります。そのため、改良から生ずる賠償についてはその価額を定めることは非常に困難で、争論を惹起する原因となることなどといった理由から、改良の賠償を請求することはできないものとしました。

 改良と修繕とを混同してはなりません。用益者が大修繕をした場合には、用益権の消滅時に第87条によってその賠償を請求することができます。また、小修繕をした場合には、それは用益者が負担すべきもので、もとよりその賠償を請求することはできません。そもそも修繕に属するものは大小関係なくすべてこれを収去することができません。改良物に関しては、賠償を請求することはできませんが、その中の用益物と分離することができる物は、これを収去することができます。次項に掲げるものがそれです。

 

299 フランス民法では、用益者が収去することができる物は非常に少なく、粧飾物だけに限られています。これに対し、日本民法は大いに用益者の権利を拡大し、建物や樹木のような重要な物をも収去することを認めています。日本では他人の土地に建物を築造し樹木を栽植する慣例が多く、その収去を認めないとすれば用益者に非常に大きな損害を与えるため、この規定が置かれています。

 用益者は、第3項で与えられた権利を行使する場合には、すべてその用益物を旧状に復する義務を負います。

 

300 用益権の消滅時には、用益者の権利に関して3種類の物があることになります。第1に用益者が収去することができるもの、第2に用益者が収去することができず賠償を請求することができるもの、第3に用益者が収去することができず賠償を請求することもできないものです。

 第1は、本条第3項に記した物と第2項の中のある物、例えば粧飾物のようなものです。第2は、大修繕に属する物(第87条参照)、第3は、本条第2項の中のある物、つまり改良のために用益物に付加して分離することができないものです。

*1:用益者は、用益権消滅の時なお土地に付着して収取されていない果実及び産出物のために償金を求める権利を有しない。

*2:用益者は、用益物に改良を加えて価格を増加させたときであっても、その改良のために虚有者に対して償金を求めることができない。

*3:用益者は、自己の設けた建物、樹木、粧飾物その他の付加物を収去することができる。ただし、その用益物を原状に復しなければならない。