【日本民法】条文総まくり

旧民法から現行民法まで。1条ずつ追いかけます。

財産編第56条【用益物の使用等】

1 住居用ノ器具其他使用ニ因リテ毀損ス可キ用益物ニ付テハ用益者ハ其用方ニ従ヒテ之ヲ使用シ且用益権消滅ノ時其現状ニテ之ヲ返還スルコトヲ得但用益者ノ過失又ハ懈怠ニ因リテ重大ノ毀損ヲ致シタルトキハ此限ニ在ラス*1

 

2 又賃貸スルコトヲ得ヘキ性質ノ用益物ニ非サレハ用益者ハ自己ノ責任ヲ以テ之ヲ賃貸スルコトヲ得ス*2

 

【現行民法典対応規定】
なし

 

今村和郎=亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之一』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

260 前の数条では、天然果実法定果実の収益について規定していました。本条は、単に物品を使用することについて規定するものです。
 「住居用の器具」とは、膳椀・屏風・火鉢の類をいいます。この種の物品は使用するに従って多少毀損するものです。しかし、その毀損は使用とは相離れない結果で、用益権の当然の結果です。所有者がその毀損を恐れるのならば、もとからこれに用益権を設定すべきではありません。そのため、法律は毀損にかかわらずこれを使用することを認めています。ただし、これを使用するにはその物品の持前の用法に従うことを命じています。例えば、膳椀で来客の時にのみ使用するものは、用益者はこれを平常使用することができません。
用益者がこの規定に従って使用した場合には、たとえ多少毀損しても用益権消滅の時の現状でその物を虚有者に返還して義務を免れます。しかし、用益者が用法外に使用するか、その他過失や懈怠により大いに毀損した場合には、当然にその責任を負い、賠償をしなければなりません。ここに「重大」という文字が入っています。これに注意しなければなりません。そもそもこの種の物品は使用により必ず多少毀損するもので、重大な毀損でなければ、実際には過失懈怠から生じた毀損であることを確定するのが困難なので、この数字を加えたものです。

 

261 第1項は用益者自身が使用する場合、第2項は他人に使用させる場合、つまり賃貸の場合を述べています。

 用益者はすべて用益物について利益を得ます。そのため、自ら用益物を使用しても、他人にこれを使用させてその賃金を収めてもよいのは当然のことです。しかし、物の用法に従うことを要するのは、すべて用益権の原則です。そのため、賃貸できる性質の物品でなければ、用益者は賃貸することができません。つまり、貸車・貸夜具の類のようなものはこれを賃貸することができ、その他書軸・書額・肖像・虚有者の秘蔵する珍器骨董の類は、これを当然に他人に賃貸できるものではありません。

 たとえ性質上賃貸することができる物品でも、賃借人の過失・懈怠によって毀損を生じた場合、その物品を滅失・紛失した場合には、用益者はその責任を負わなければなりません。

 この第2項は条文が非常に穏当ではありません。そのため、その意義は誤解を生じる可能性があります。ここで試しにこれを改めるとすれば、「賃貸することができる性質の用益物で、かつ用益者が自己の責任でするのでなければ賃貸することができない」とすべきです。

  そうすると、本条の意義は正しいものとなります。

 

262 本条にいう「使用」とは、以下の第2節にいう使用権ではありません。第2節にいう「使用の権利」は非常に狭いもので、使用者の家族の限度に応じて使用することを要し、他人に賃貸することができないものです。本条の「使用」は、用益権固有の使用権で、その効用は非常に広いものです。

 

263264 略(論説)

*1:住居用の器具その他使用によって毀損すべき用益物については、用益者はその用法に従ってこれを使用し、かつ、用益権の消滅のときにその現状でこれを返還することができる。ただし、用益者の過失又は懈怠によって重大な毀損が生じたときは、この限りでない。

*2:賃貸することができる性質の用益物でなければ、用益者は自己の責任でこれを賃貸することができない。