【日本民法】条文総まくり

旧民法から現行民法まで。1条ずつ追いかけます。

財産編第114条【使用権者等による動産目録等の作成等】

1 使用権又ハ住居権ヲ有スル者ハ用益者ト同シク動産ノ目録及ヒ不動産ノ形状書ヲ作リ且保証人ヲ立ツル責ニ任ス*1

 

2 又用益者ト同一ノ注意ヲ為シ及ヒ自己ノ過失ニ付テハ之ト同一ノ責ニ任ス*2

 

3 又其収益ノ割合ニ応シ用益者ト同シク修繕費用、租税、公課及ヒ訴訟費用ヲ分担ス*3

 

【現行民法典対応規定】

なし

 

今村和郎=亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之一』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

422 本条は、使用権・住居権が制限的用益権であることを明確にしたものです。

 使用者はその使用物の全部か一部を現実に占有するので、動産を紛失したり、費消したり、不動産を損壊することがないわけではありません。そのため、その占有を開始する前に、所有者と立ち会い、あるいは合式にこれを召喚して、完全精確にその動産・不動産の形状書を作成し、使用権・住居権消滅時に負担すべき返還・償金のために保証人を立てなければなりません。本条は、この担保については単に保証人を立てる責任を負うと明言しているにすぎませんが、これはあえて保証人に限る意味ではありません。用益権については、第76条に規定したように、他の相応の担保を供することでもかまいません。要するに、本条はその一例を挙げたにすぎないものです。

 使用者は、善良なる管理人のようにその使用物の保存に注意し、万一過失か懈怠によってその滅失・毀損を招いた場合には、損害賠償責任を負います。これは当然のことで、説明は不要でしょう。

 修繕・租税・公課・訴訟費用についても、用益者と同じくこれを負担しなければなりません。ただし、この負担について用益者と異なるのは、用益者は収益の全部を独占できるので、その負担も全部負担すべきだということになりますが、使用者は必ずしも常に収益の全部を独占しません。その需用が僅少であれば、収益の余分は所有者に帰属します。そのため、収益の全部を独占する場合には用益者と同じく負担の全部も負担すべきですが、そのいくらかにとどまる場合には所有者とともにその収益の割合に応じて負担すべきです。これが用益者と異なるところです。

 収益の割合に応じて負担をするとは、例えば使用権が設定された田地で米100石を産出する場合に、使用者には30石のほかに需用がないときは、70石は所有者の収益となるので、この場合には租税などの負担は7:3の割合で所有者と使用者が分任すべきことになるということです。

 これに対しては、そうであれば使用者は30石の需用があるので負担の3分を控除し、これによりその需用を充足することができなくなり、これは使用者とその家族の需用を充足させるという趣旨に反するのではないかという指摘があります。この批判にも一理ないわけではありません。しかし、使用権と住居権は扶養料の債権ではありません。これを扶養料の債権と同視するならば、収益100石の中で使用者に必要な30石を常に収取させなければなりません。さらに、収益が減じて20石となった場合には、不足する10石は所有者がこれを補充しなければなりません。この権利はこのような性質を有するものではありません。使用者とその家族の需用の程度に限る用益権です。用益権については、用益者が収益を行い、その収益の負担を負担します。この権利もまたこれと同じです。使用者が収益を行う以上は、その割合に応じて負担をさせなければならないのは当然です。負担が重すぎて実際に利益を得られなくなるだけでなく、かえって損失を生じるのであれば、使用者はいつでもその権利を放棄し、これにより負担を免れることができます。収益は常に自分の利得とし、いっさい負担はしないというような専横をほしいままにすることを許す道理はありません。上の指摘は、これとて非なるものといえるでしょう。

*1:使用権又は住居権を有する者は、用益者と同じく、動産の目録及び不動産の形状書を作成し、かつ保証人を立てる責任を負う。

*2:使用権又は住居権を有する者は、用益者と同一の注意をする義務を負い、自己の過失についてはこれを同一の責任を負う。

*3:使用権又は住居権を有する者は、その収益の割合に応じ、用益者と同じく、修繕費用、租税、公課及び訴訟費用を分担する。