【日本民法】条文総まくり

旧民法から現行民法まで。1条ずつ追いかけます。

財産編第82条【用益者の担保供出義務の免除】

1 用益者ノ保証人ヲ立ツル義務ハ設定ノ権原又ハ其後ノ合意ヲ以テ之ヲ免除スルコトヲ得但用益者ノ無資力ト為リタルトキハ此免除ハ其効ヲ失フ*1

 

2 若シ用益者カ既ニ収益ヲ始メタルトキハ其用益物ヲ虚有者ニ返還シ且前二条ニ従ヒテ処弁ス*2

 

【現行民法典対応規定】

なし

 

 

 

今村和郎=亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之一』(明治23年)

 

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

327 民法は虚有者の権利を保護することを企図して、用益者に担保を供出する義務を負担させています。しかし、ある場合、例えば、夫婦・親子などの間では、担保の価格について評議したり、妻に担保物を出させたりすることは、非常に困ることがあるでしょう。また、必ずしも担保を供出せずとも、用益者に多少の財産があることもありますし、その人物に大いに信用を置けることもあります。こうした場合には、担保を供出させて煩雑な手数をとるよりも、むしろその供出義務を免除するほうがよいこともあるでしょう。このような場合には、虚有者はその設定権原つまり契約や遺言などで、または設定後いつでも合意して、用益者の担保供出義務を免除することができます。この義務は法律が強いて負担させるものではないため、本条のこの本文がなくとも、虚有者の意に任せるべきだからです。法律はその義務を免除することを禁じることはできません。

 この免除は、必ずしも明示である必要はありません。免除の意思が証書に顕われている場合には、同じく免除があったものとします。

 用益者が無資力となった場合には、この免除は法律上効力を失います。民法は、虚有者によるこの義務の免除は、用益者に資力があることを虚有者が信じていることによるものと推測しているからです。そのため、その無資力の状況が表発すれば、この推測はそれにより消滅します。ただし、民法は強いてその免除の効力を失わせるわけではないので、虚有者がさらに免除した場合には、その免除は効力を生じます。

 免除後に用益者が無資力となっても、必ずしも用益物を虚有者に返還することが必要なわけではありません。用益者の諸般の義務を担保する第三者があれば、用益者は依然として収益をすることができます。

 本条はただ保証人を立てる義務があるとしていますが、これはすべて担保を供出する義務という意味です。この行文には語弊があります。

 

328 略(論説)

*1:用益者が保証人を立てる義務は、設定の権原又はその後の合意によってこれを免除することができる。ただし、用益者が無資力となったときは、この免除はその効力を失う。

*2:前項の場合において、用益者が既に収益を開始していたときは、その用益物を虚有者に返還し、かつ、前2条に従って処弁する。