1 用益物カ公用徴収ヲ受ケタルトキハ用益者ハ其償金ニ付キ収益ス*1
2 此場合ニ於テ用益者ハ其収益スル元本ニ対シテ相応ナル担保ヲ供スルコトヲ要ス但此場合ヲ予見シテ特ニ其義務ヲ免除シタルトキハ此限ニ在ラス*2
3 第九十条乃至第九十二条ニ規定シタル場合ニ於テモ亦同シ*3
【現行民法典対応規定】
なし
今村和郎=亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之一』(明治23年)
※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。
408 用益物が公用徴収された場合にはその用益権は消滅します。所有権が公用徴収によって消滅するのと同じ論理によるものなので、ここでは説明しません。
しかし、この場合の用益権の消滅は、他の原因に基づく消滅の場合とは異なり、単純にこれを消滅させるとその結果が不当に虚有者を利することになることを指摘しておかなければなりません。公用徴収の場合には必ず償金を与えることが必要だからです。この償金はもともとその用益物に代わるものなので、これについて収益させることが妥当です。その租税怠納処分につき残余の金額があれば、その元本は所有者に属し、その収益は用益者に属すると定められ(第90条)、火災保険に付した場合には、火災により得た償金は虚有者に属し、その収益は用益者に属すると定められ(第91条)、公用徴収の償金、租税怠納処分より生ずる残額、火災保険の償金とその性質は異なりますが、その出所は同じです。これが、用益者はその公用徴収の償金について収益すると定められた理由です。
この収益権は何年に及ぶものでしょうか。この点については法律には何の規定もありませんが、もともと用益権から変化したものなので、用益者の死亡その他用益権消滅の他の原因が生ずるまで継続するものと解釈するのが妥当です。ただし、その物に関する消滅原因つまり不使用・毀滅はその権利を消滅させるものではありません。不使用はこの場合には用益者の行為にはつながらず、毀滅もまた公用徴収をした官府の行為や過怠によるもので用益者の関知するものではないからです。これについては404を参照してください。
409 金銭は費消・紛失しやすいものです。これを用益者に与え、これについて収益させるのは決して危険がないとはいえません。そのため、法律は、虚有者があらかじめその用益物が公用徴収を受けることを考慮し、特に免除しない限りは、用益者はその収益する元本に対して相応の担保を供する義務があるとしました。
そのため、用益者が当初担保を供する義務を免除された場合でも、本条の場合には必ずこれを供しなければなりません。当初担保を供した場合でも、さらに償金つまり収益すべき元本の額に応じてこれを供しなければなりません。終了時に当初の担保が自然消滅していることもあるからです。