1 用益者カ動産又ハ不動産ニ対シテ相応ナル担保ヲ供スル能ハス且当事者ノ間ニ別段ノ合意ナキトキハ左ノ如ク処弁ス*1
2 日用品其他ノ代替物ハ之ヲ競売シ其代金ハ虚有者、用益者連名ニテ用益権ノ直接ニ存スル金銭ト共ニ供託所ニ供託シ又ハ之ヲ国債券ニ換ヘ用益者ハ其利息ヲ収取ス*2
3 此他ノ動産ハ虚有者之ヲ占有ス*3
4 不動産ハ之ヲ第三者ニ賃貸シ又ハ虚有者カ賃借ノ名義ニテ之ヲ保存シ用益者ハ保持費用及ヒ第八十九条ニ記載シタル負担ヲ扣除シテ貸賃ヲ収取ス*4
【現行民法典対応規定】
なし
今村和郎=亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之一』(明治23年)
※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。
325 民法は、第76条で相応な担保を供出する義務を用益者に負担させています。しかし、用益者がこの義務を履行することができない場合もあります。そのような場合にはどのように処分したらよいでしょうか。この場合に、用益者の収取権を失わせるのは、非常に用益者を害し、虚有者に不当な利得を受けさせることになります。しかしまた、通常のように用益者に収益させれば、大いに虚有者の権利を害することになります。ここで民法は両者の権利を調和させようと努め、本条の規定を置きました。
このような場合について、特に両者の間に合意があるときは、もとよりその合意に従うべきことはもちろんです。
第2項は、すべてこの種の物品を売却すること、その代金を他の現金とともに供託所に寄託すること、公債証書を買い入れる処分を示しています。それを連名ですることを必要とする理由は、双方が協議の上でなければ供託所より取り出すこと、公債証書を売却することができないようにするためです。
日用品・供託所については、第55条・第77条を参照してください。
第3項に「その他の動産」とあるのは、家具、諸器物などで売却することができないものをいいます。これは虚有者が占有するところとなるため、用益者はこの種の動産については少しも利益を得ることはありません。
不動産はたいていは収益を生じるものなので、これを他人に賃貸して賃金を得るか、そうでなくとも虚有者が賃借人の資格で賃金を出して、これを用益者に付与します。ただし、保持に必要な費用・租税の類を控除することが必要です。
動産もまた不動産のように賃貸することができるかという疑いがあります。動産は上に述べたように器具の類で、もともと賃貸すべきものではないことが少なくありません。これを賃貸することができるとすれば、大いに虚有者に害を与えることがあるでしょう。しかし、動産の中に賃貸を目的とするものがあります。例えば、貸車や貸屋具の類です。この種の物を用益物とした場合にも、本条の規定によればその動産物は、虚有者の占有するところとなるので、この点では本条は虚有者に不当な利益を得させてしまう結果となることがあります。