1 担保ス可キ金額ニ付テハ裁判所ハ用益権ノ直接ニ存スル金額未満ニ其金額ヲ定ムルコトヲ得ス*1
2 又動産ノ評価カ売買ニ同シキ効力ヲ有スルトキハ其評価ノ全額未満ニ之ヲ定ムルコトヲ得ス*2
3 又評価カ売買ニ同シキ効力ヲ有セサルトキハ其評価ノ半額未満ニ之ヲ定ムルコトヲ得ス*3
4 然レトモ右ノ末ノ場合ニ於テ若シ用益者カ評価セシ動産ニ係ル権利ヲ用益権ノ継続間ニ譲渡シ又ハ賃貸シタルトキハ虚有者ハ常ニ評価ノ全額ニ対シテ担保ヲ要求スルコトヲ得*4
5 不動産ノ担保金額ノ多寡ハ裁判所之ヲ定ム*5
【現行民法典対応規定】
なし
今村和郎=亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之一』(明治23年)
※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。
321 担保すべき金額は、第76条にあるように、用益権消滅の時に用益者が返還しなければならない物の価額と償金の見積高です。この金高については、用益者と虚有者との間で意見を異にして、ついに訴訟に及ぶこともあるでしょう。このような場合に向けて、本条が設けられています。判事は、任意にこの金額を定めることはできません。民法は、その標準として数個の準則を示しています。
第1則 用益物の中に金銭が存在する場合には、その金額以下に担保すべき金額を設定することはできません。
第2則 用益物である動産に評価を付し、その評価が第73条により売買と同じ効力を有する場合には、用益物の中に金銭が存在する場合と同一の情況にあるため、その評価の金額以下に担保金額を設定することはできません。
第3則 その動産の評価が売買と同じ効力を有しない場合には、その半額を担保すべき金額の最下限とします。これはその動産の真価が評価の半額だと推測したものではありません。そもそも担保を出させるのは、用益者に対し、多少信用を置かないことによるものです。しかし、用益者は動産の全部を消滅させるだろうとは推測していません。半信半不信という理由で評価の半価までは担保させるとしたのです。
第4則 動産の評価が売買と同じ効力を有しない場合に、用益者がその動産に関する用益権を他人に譲渡したとき、またはその動産を賃貸したときは、その譲受人や賃借人が誰であるかを知らないため、ここには信を置き難い者と仮定します。そのため、評価全額の担保を提供させることができます。この場合には危険の度合いが一層大きくなるからです。
以上すべて動産について定めた規則です。動産は容易に毀損し、また容易に滅失するものなので、法律は大いに判事の審判権に干渉しています。これは虚有者の権利を保護する趣旨です。
第5則 不動産については、法律はまったく担保の金額を定める権利を裁判所に委ねてこれに干渉しません。そのため、判事はこれを審判するに当たり、何の拘束も受けません。
動産と不動産とにつきなぜこのように判事の審判権に区別をつけるのかといえば、原案の説明書によれば、そもそも不動産は全滅することがないものと仮定されるので、その担保の全額を定めることを判事に委ねても害はないという意図があるからです。