【日本民法】条文総まくり

旧民法から現行民法まで。1条ずつ追いかけます。

財産編第9条【用法による不動産】

動産ノ所有者カ其土地又ハ建物ノ利用、便益若クハ粧飾ノ為メニ永遠又ハ不定ノ時間其土地又ハ建物ニ備附ケタル動産ハ性質ノ何タルヲ問ハス用方ニ因ル不動産タリ即チ左ノ如シ但反対ノ証拠アルトキハ此限ニ在ラス
第一 土地ノ耕作、利用又ハ肥料ノ為メニ備ヘタル獣畜
第二 耕作用ニ備ヘタル器具、種子、藁草及ヒ肥料
第三 養蚕場ニ備ヘタル蚕種
第四 樹木ノ支持ニ備ヘタル棚架及ヒ杭柱
第五 土地ニ生スル物品ノ化製ニ備ヘタル器具
第六 工業場ニ備ヘタル機械及ヒ器具
第七 不動産ノ常用ニ備ヘタル小舟但其水流カ公有ニ係リ又ハ他人ニ属スルトキモ亦同シ
第八 園庭ニ装置シタル石灯籠、水鉢及ヒ岩石
第九 建物ニ備ヘタル畳、建具其他ノ補足物及ヒ毀損スルニ非サレハ取離スコトヲ得サル扁額、玻瓈鏡、彫刻物其他各種ノ粧飾物
第十 修繕中ノ建物ヨリ取離シテ再ヒ之ニ用ユ可キ材料*1

 

【現行民法典対応規定】
なし

 

今村和郎=亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之一』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

53 「用法による不動産」とは、もともと純粋に動産である物を、ある方法で用いることにより、これを不動産とするものです。

 建物として組み立てられるものを細かに見ると、これを2種類に区別することができます。その1つは純粋な建物の成分で、「性質による不動産」というべきもの、例えば棟・梁・柱礎です。もう1つは純粋な建物の成分ではなく、永く建物に付属するもので、その従たる物というべきもの、例えば分離することのできない扁額・鏡面です。後者の物が「用法による不動産」です。

 ある動産が一時的に仮に不動産に付属したにすぎない場合には、これを「用法による不動産」とはしません。その動産を「用法による不動産」とすべき場合は、売買・譲渡・貸借などで主従ともに流通するような状況である場合に限ります。そして、この状況は所有者の意思に基づくものでなければなりません。

 また、「用法による不動産」は、動産としての従前の性質を失いません。これもまた「性質による不動産」とは異なるところです。

 以上が「用法による不動産」の原則で、これにほぼ異論はありません。しかし、これを実際に適用するのはなかなか困難です。なぜなら、「用法による不動産」は「性質による不動産」と区別するのが難しく、純粋に動産である物と分別するのも難しいからです。

 このように、「用法による不動産」の識別は困難です。日本民法はこの困難を避けようとし、注意して条文を作ったようです。しかし、非常にはっきりしないものになっています。こうしたことをはっきりさせることが難しいからです。

 

54 本条によれば、用法には3つの態様があります。利用の方法・便益の方法・装飾の方法です。そのほか本条には種々の要件が規定されています。動産を「用法による不動産」とするには、次の4つの要件があります。

 ① 動産を「性質による不動産」(土地・建物)に備え付けること。

 ② 動産を備え付けた者がその動産・これを備え付けた不動産の所有者であること。

 ③ 永久に備え付けたか、たとえそうでないとしても仮ではなく、それを取り除く時期が定まっていないこと。

 ④ 備え付けた目的が利用・便益・装飾のためであること。

 この4要件を具備する場合には、動産は「用法による不動産」となります。以下で順にこれを説明します。

 

55 要件① そもそも動産は他の不動産の性質を借りるのでなければ不動産となることはできません。そのため、必ずこれを土地・建物のような「性質による不動産」に備え付けなければなりません。 

 「備え付ける」とは「合体する」という意味ではありません。合体すればその物は固有の性質を失います。その場合は「性質による不動産」となります。

 本条にいう土地・家屋は、「性質による不動産」と見るべきです。必ずしもこの明言する2種類の不動産に限りません。ここではその主たるものを掲げ、他を略しただけのことです。

 

56 要件② 本条に「動産ノ所有者カ其土地……」とあるのは、「その所有する土地」という意味です。

 そもそも動産が用法により不動産となるには、永久または不定の期間これを不動産に備え付けることを必要とします。動産を備え付けた者がその動産やこれを備え付けた不動産の所有者でない場合には、これを永久または不定の期間備え付ける権利を有しません。そのため、この場合には法律はこれを不動産とはしないわけです。

 本条に「動産ノ所有者カ其土地……」とあるのは、完全所有権を有する者に限るという意味でしょうか。

 動産については、完全所有権を有する者でなければこれを不動産とすることができないことは明らかです。使用・収益・処分の権限を有しなければ、動産を不動産に付属させることはできないからです。占有者は、この問題に関しては所有者と同様です。

 土地・建物、つまり動産を備え付けた不動産についてはどうでしょうか。これについては以下の論説(略)で説明します。

 

57 要件③ そもそも、「用法による不動産」は、動産が永久に不動産に付属することにより成立するものです。仮にこれを付属させた場合には、いつこれを取り除くかを知ることができなければ、他の純粋な動産と同じです。不動産の所有者は、必ずしも永久にと考えていない場合にも、仮にということではなく動産をこれに付属させることがあります。この場合には永久を期した場合と同様の状況となり、少なくともある時まではこれを取り除かない意思があることが明らかです。そのため、これを永久と同一に考えて規定したわけです。しかし、永久と仮とは、所有者の意思に基づくもので、これを推測することは非常に困難です。

 フランス民法では、「用法による不動産」を2種類に分け、第1種を「耕具の類で不動産の利用に供するもの」としています。それを永久に備え付けるかどうかは問われていません。第2種は「装飾物の類で永久に備え付けたもの」で、これだけを「用法による不動産」とします。日本民法はこれと異なり、すべてについて「永久」の要件を必要とします。そのため、利用・便益・装飾の3種類につき、「永久」を推定すべきものがなければ、動産は不動産とはなりません。

 その永遠または不定の期間備え付ける意思はどうやってこれを知ることができるのでしょうか。

 フランス民法には、これを知る方法が示されています。セメントで固着した場合や、釘で定着させた場合には、所有者に永遠に備え付ける意思があるとみなします。日本民法はこの類の推測方法を示していません。ただ、本条第1号以下に種々の事例を規定し、そこから類推して所有者の意思を判定しようとしています。これらの問題は事実問題に属するので、あらかじめ法律にこれを規定することは難しく、裁判官の判断に委ねられています。

 

58 要件④ 本条に「利用、便益若クハ粧飾ノ為メ……」とあることから、「用法による不動産」には3種類あることがわかります。「利用によるもの」・「便益によるもの」・「装飾によるもの」の3種類です。これを順に説明します。

 

(1)利用による不動産

 利用とは「営利の目的で事業をする」という意味です。土地を耕作して米や麦を育てることや、製造所で物品を製造することは、「土地を利用し、製造所を利用する」ことに当たります。

 そもそも土地・建物を利用するには、土地・建物だけでは足りません。これに様々な物品を加えてはじめて営利を図ることができます。つまり、土地には牛や馬、製造所には機械が必要です。その土地・建物の利用のために備え付けた物品は、本条にいう「用法による不動産」です。土地・建物の利用に必要な物品がないというのは、あたかも人に衣服がないようなものです。そのため、土地・建物は「主たる物」です。その利用に必要な物品は「従たる物」です。この主従の区別は、実際には重要な関係があります。これを以下で説明します。

 不動産に備え付けた動産が「利用による不動産」となるかどうかは、容易に知ることが困難です。例えば、耕地の所有者がこれに農具を備え付け、土地とあわせて賃貸した場合には、所有者は、農具を土地の利用のために備え付ける意思を有することは明らかです。しかし、所有者が自らその土地を耕作する場合には、これに備え付けた牛や馬の類が果たしてその利用のためかどうかを知ることは困難です。

 これを知る方法があります。つまり、備え付けた物品が真に不動産の利用に必要かどうかを考えるのです。しかし、この方法だけでは十分ではありません。たとえ備え付けた物品が不動産の利用に必要でも、所有者が本当に利用のためにこれを備え付けたのではない場合には、その物品は不動産とはならないからです。そのため、種々の状況を考慮して所有者の意思を推測することが必要です。

 以上、農事に関する利用の場合と工事に関する利用の場合とを合わせて説明しました。工事に関しては、2つの注意すべき点があります。1つは、工事をするのに必要な不動産(性質による)があり、これについて工事を営むこと、もう1つは、この工事をするについて「用法による不動産」となる物品は、その工事と直接の関係があり、これに必要なものであること、です。

 この2つの要件を具備しなければ、動産は「用法による不動産」とはなりません。動産物品が「用法による不動産」となるには必ず他の不動産の従たる物とならなければなりません。そのため、別に主たる不動産が存在することが必要です(この原則は農事に関しても同じです。ただ、農事は常に土地を主とするため、特にこれを掲げて論ずる必要がありません。)。

 そのため、巨大艦船でも、その中に備え付けた、工事に必要とする器具は動産です。

 

(2)便益による不動産

 ある動産をある不動産に加えた場合には、これによりその不動産が便益を得ることがあります。これを取り除いたとしても、その不動産は多少の便益を失いますが、その本来の効用を完全に失うわけではありません。例えば、梨の木の棚です。やむをえない場合にはこの棚を取り除くことができます。その場合には、ただその収穫が減るだけです。

 これに対して、「利用による不動産」は、これを取り除くと、主たる不動産はその利益を減じるだけでなく、まったくその用をなさなくなります。これが「便益による不動産」とはっきり異なるところです。

 そのため、この種の不動産は、「利用による不動産」と重なることはありません。また、装飾による不動産とも重なりません。しかし、「性質による不動産」と「純粋な動産」とは、非常に重なりやすいといえます。

 例えば、洋館に備え付けたテーブルや椅子の類は、その洋館のためには非常に便益があります。これを「便益による不動産」というべきでしょう。

 しかし、これを不動産というべきではありません。テーブルや椅子の類は簡単に動かすことができ、単にこれを一室に設置しただけでは、これをその館に備え付け、他に利用しないという意思が表示されたとはいえません。例の梨棚のような状況とは異なります。テーブルや椅子をある不動産に定着させて他に動かさないという状況がある場合には、「便益による不動産」となることがあります。例えば、公園内に備えたテーブルや椅子といった土地に定着したものです。

 また、縁側のような腰掛で、ある部屋に定着し、他に動かすことができないものは、「性質による不動産」となります。

 そのため、ある動産が果たしてこの種の不動産か、他の不動産かということを知るには、ただ上に掲げた原則に従い、事実と状況とにより判別するほかに方法はありません。

 

(3)装飾による不動産

 ある不動産を装飾するためこれに備えた動産や、ある不動産を有する者の娯楽のためその不動産に備え付けた動産は、「装飾による不動産」です。

 この種の不動産は、これを取り除いても主たる不動産の利用や便益には関係しません。これが上の2種類の不動産とははっきり異なるところです。

 「便益による不動産」・「装飾による不動産」は、フランス民法では他の不動産・動産とこれを判別することが非常に困難です。民法の条文が完全ではないからです。日本民法は、本条に便益・装飾の2つの語を加えて不動産となる原因を明言したため、学者がこれを考察する必要が小さくなりました。しかし、この種々の区別をするのはなお簡単ではありません。

 

59 以上、「用法による不動産」の原則を説明しました。以下では、本条に規定されている事例を順に説明しましょう。

 

 第1号 本号には、「土地の利用による不動産」の例が示されています。「その耕作・利用」とするのは、耕作のほかにさまざまに利用されることがあるためです。例えば、鉱物・石炭の類の採掘です。要するに、これらはすべて「利用」です。

 耕作その他の利用のために備え付けた牛馬、土地を肥やすためにそこに放った牛や羊などは、すべて本号に掲げるものに該当します。

 土地の所有者が牛や羊をその土地に放牧し、その牛や羊が肥え、これを販売しようとする場合には、その牛や羊は不動産ではありません。

また、雉や豚のように食用に供する禽獣は、これを土地に放っておいても不動産とはなりません。土地の利用には必要ないからです(黒奴は、これを土地の利用のために使役することを許す国では不動産となるといわれています。)

 以上の諸種の物は、これをある定まった土地に備え付けたのでなければ不動産とはなりません。そのため、日本の農家で牛馬を飼い、これを用いてA地を耕し、B地の収穫物を運び、農間期にはこれによる運送を業とするような場合には、その牛馬は不動産とはなりません。本号で不動産となる獣畜は、北海道の開拓のように一定の土地に備え付けた牛馬の類に限ります。この場合には、永遠または不定の期間土地に備え付けたということができるからです。ただ、一定の土地に備え付けた牛馬は、たまたまこれを他のことに使役しても、その不動産としての性質を失うことはありません。

 そのため、本号に当たる不動産は、わが国ではあまり見られません。

 

 第2号 本号もまた、「土地の利用による不動産」の例を示しています。

耕作用に備え付けた器具とは、鋤・鍬・箕・篩その他の器具をいいます。種子は蒔くために備え付け、まだこれを蒔かない場合にだけ「用法による不動産」となります。既にこれを蒔いた場合には、「性質による不動産」となります。

藁草・糞土その他の肥料は、それが販売するものである場合には動産です。これを備え付けた土地の利用のために用いるものである場合には不動産です。

種子は、その多くがその土地から生じます。しかし、不動産となるかどうかは、その土地から生じたかどうかとは関係がありません。

 

 第3号 本号の蚕種とは、特に養蚕のために設けた場所に備え付けたものをいいます。農家で他の事業の合間に養蚕する類のものではありません。

 立法者は、養蚕場の蚕種と農場の穀種とを同一視し、これを「用法による不動産」としました。

 この点については疑問があります。これについては以下の論説(略)のところで述べます。

 

 第4号 本号は「便益による不動産」の例を示しています。

 樹木は土地に合体して「性質による不動産」となります。しかし、これを支持するために備え付けた棚・架・杭・柱はその樹木の便益のためにするものです。

 梨・葡萄の棚や、新たに栽植した樹木の副木の類は、すべて本号によって不動産となります。

 

 第5号 本号もまた「土地の利用による不動産」の例を示しています。

 本号には、農の要素・工の要素がそれぞれ含まれています。例えば、甘藷を耕作する場合です。搾器でこれを絞り、その汁を煮て砂糖を作る場合には、搾器・鍋・釜その他これに属する種々の器具は、すべて本号により「利用による不動産」となります。

 茶園に製茶所を設け、その園の茶を製造する場合には器具が必要です。この類の器具もまた本号により不動産となります。

 

 第6号 本号は「建物の利用による不動産」の例を示しています。

 工業場とは物品の製造をするところです。しかし、その工業場とは指物師の住家の一隅を職場とするようなことをいうのではありません。本号の工業場に当たるものは、以下の要件を具備することが必要です。つまり、工事をする職工のためにだけ建物を設けたのではなく、建物が工事の主たる一具となっていることが必要です。

 紡績所・製鉄所、汽船・羅紗・砂糖・生糸・茶・紙・ガス・セメント・燐寸の製造所、酒屋の酒倉、水車場は、すべて本号にいう工業場です。そのため、その中に備え付けた蒸気水力の器械からその他工業に必要な種々の器具・牛馬の類に至るまで、すべて「利用による不動産」となります。

 これらの工業場に備え付けた製造原料・製作物はもとよりすべて動産です。

 劇場・温泉場もまた本号から類推されるものです。そのため、劇場の種々の装飾具・温泉場の浴場具は不動産となります。

 大工の鋸・鉋、鍛冶屋の鎚・鋏の多くは「用法による不動産」とはなりません。特に工業場を設けることが稀だからです。

 また、印刷所のうち蒸気力を利用して特に設けたものは本号の工業場に当たりますが、その他の多くはそうではありません。

 酒屋の造酒桶はもとより不動産ですが、酒を入れて他に運送する樽は不動産ではありません。諸製造所の荷車の類も不動産ではありません。温泉場の入浴に必要な建物・湯桶は不動産ですが、浴客を宿泊させるために設けた種々の器物は不動産ではありません。

 

 第7号 本号は「便益・装飾による不動産」を合わせて示しています。水流湖池のほとりに住居する者や不動産を有する者は、その往来通行のため、その他不動産の必要のために特に小舟を備えることがあります。この類の小舟は便益のためにすることもあれば娯楽のためにすることもあります。すべて「用法による不動産」です。

 また、その水流湖池が公有か他人に属するかによって小舟の性質が変わることはありません。小舟は水流湖池の付属物ではなく、これを備え付けた不動産の付属物だからです。

 常用の2字に注目して下さい。常用でなければ小舟は普通の動産と同じです。

 

 第8号 本号もまた便益と装飾とを合わせて規定しています。

 庭園に設置した灯籠や岩石の多くは装飾のためです。水鉢はもとより純粋な動産です。また、たとえこれを商人から買い求めても、まだ庭園に設置しない間は依然としてその動産の性質を失いません。

 

 第9号 本号でもまた便益・装飾の物品を合わせて規定しています。

 扁額・彫刻物の類はすべて装飾のためにする物品です。本号に「毀損スルニ非サレハ……」とあるのは、釘付け・糊付けその他の方法で固着することを指しています。この種の物品はもともと純粋な不動産なので、これを永遠または不定の期間不動産に備え付ける意思を表すことは非常に困難です。そのため、固着することを不動産とする要件としたのです。

 毀損の2字に拘泥してはいけません。例えば、家屋に備え付けた時計です(時計商の屋上や寺院にあるもの)。その備え付けた場所を毀損せずにこれを取り除くことができます。しかし、これを取り除くとそこに空白が生じるため、この類の物品は釘で固着したわけではないものの、不動産となることがあります。寺院の鐘もまたこの類です。ただし、鐘、特にこのために築造した建物つまり鐘楼に備え付けたものや火見の半鐘は、「性質による不動産」となります。また、書画はもとより動産ですが、これを壁の上に糊着した場合には、本号によって不動産となります。

 本号の畳に関しては疑問があります。これについては以下の論説(略)で述べます。

 

 第10号 「修繕中ノ建物ヨリ取離シテ再ヒ之ニ用ユ可キ材料」とは、瓦・天井・床板の類を修繕するために一時的に建物から分離したものをいいます。屋上の瓦を分離した場合には純粋な動産となりますが、再びこれを屋の上に葺くと、将来不動産となることがあります。そのために本号でこれを不動産としたのでしょうか。

 この点については疑問がありますが、これについては以下の論説(略)で述べます。

 

 以上、「用法による不動産」とそうでないものとの区別の大要を説明しました。しかし、実際にはほとんど判別できないものもあります。あらかじめこれといったルールを設けることはできません。上に示した原則に基づき、状況に応じて判断するほかありません。

 本条に示した例の中では、蚕種・棚・架・杭・柱のような細かな物品が規定されている反面、大事業に関係が特に深いものが漏れています。例えば、鉄道の車両です。

 

60 本条に規定する種々の物品については、民法がこれを「用法による不動産」であると推定しています。これを「法律上の推定」といいます。

 法律上の推定には2種類あります。1つが完全な推定で、もう1つが軽易な推定です。「完全な推定」については、反対の証拠を挙げることが許されません。そのため、その推定は確定不変のものとなります。「軽易な推定」については、反対の証拠を挙げ、これを攻撃することを認めています。本条の推定は「軽易な推定」です。そのため、ただし書が加えられています。

 「軽易な推定」について反対の挙証を認めることについては、証拠編第87条に明文があり、本条のただし書を加える必要がありません。このほかにも、民法はただし書を必要としない場合にもこれを加えることが少なくありません。丁寧さを重視して重複を避けなかったためでしょうか(証拠編第75条以下参照)。

 

61 「用法による不動産」と「性質による不動産」との区別 そもそも「用法による不動産」は「性質による不動産」に付属するもので、その従たる物品です。これをこの2種類の不動産の区別の主たる着眼点とします。

 「性質による不動産」の主なものは土地・建物です。土地・建物に合体して「性質による不動産となる物品」があります。

 土地、建物と「用法による不動産」とを区別するのは難しくありませんが、土地、建物に合体して「性質による不動産」となった物と「用法による不動産」との区別は非常に困難です。

 土地に合体して「性質による不動産」となった物は、第8条の例に示したような土手・桟橋・樹木・建物の類です。

 これらの物はすべて土地と合体してはじめて「性質による不動産」となるものです。土手・桟橋・樹木・建物を土地から分離すると、土手は一団の土となり、桟橋は木片となり、樹木は材木となり、建物は竹・石・土・木となります。そのため、土地と一体となって完全なものとなるものです。

 土地に備え付けて「用法による不動産」となる物はそうではありません。獣畜・藁草・器具は依然として旧状旧名を残すものです。

 例えば、宅地・稲田は、土地だけでは真の宅地・稲田ではありません。土地に家屋があり、稲があってはじめてそうなります。そのため、宅地に家屋があって宅地・稲田に稲があって稲田となるものです。また、例えば耕地は獣畜・藁草を備え付けずとも耕地であることには変わりありません。

 そのため、この区別の原則によれば、不動産に添付された動産が「性質による不動産」となる場合には、その従来の性質を失います。ただ「用法による不動産」となる場合には、その従来の性質を残したものとなります。

 

62 以下では建物に関する区別について説明します。

 そもそも建物と称する一体の物は種々の物品から成り立っています。その組織を構成する物の中で建物を完全なものとするもの、もしこれを取り除けば建物が成り立たなくなるものとがあります。また、ただその利用・便益・装飾のためにだけ備え付けたものがあります。完全なものとするのに必要な物は、これを「建物の要素」といいます。要素は「性質による不動産」です。また、建物が完全であるかどうかに関係なく、ただその利用・便益・装飾のためにだけ備え付けられたものは、これを「用法による不動産」といいます。この2種の不動産の区別を原則とします。

 家屋の雨戸・河原・垣壁を取り除けば、これを完全な家屋と称することはできなくなります。これを取り除いてもなお家屋は家屋だとすると、さらに床板・柱を除いてもまた家屋だということになり、ついに1本の柱・1片の棟で家屋と称してもよいことになってしまいます。雨戸・瓦・垣壁の類は建物の要素で、すべて「性質による不動産」なのです。

 ドゥモロンブは、そもそも建物の一成分を構成する物品で、これを取り除くと建物として不具のものとなってしまうものや、他に利用し難いものは、すべて「性質による不動産」で、これに対し、扁額・玻瓈鏡のようにこれを取り除いても建物としての資格に関係がないものは、「性質による不動産」ではないとします。

 

63 「性質による不動産」と「用法による不動産」との区別の必要性 この区別は、法理論におけるだけでなく、実際にもまた必要な区別です。以下に事例を用いて説明しましょう。

 財産取得編第9条には「土地又は建物の所有者が他人に属する材料で建築その他の耕作をしたときは、その工作物を毀壊して材料を返還することを要しない」とあります。

 そのため、不動産の所有者は材料の所有者の承諾を得ずにその動産を自己の所有物とすることができます。その理由は次のように説明されます。動産が不動産に合体した場合には、たちまち従前の動産の性質を失い、完全に不動産となります。そのため、従前の動産を法律上消滅したものとみなします。既に消滅した物を取り戻すことはできないので、不動産の所有者は他人の材料を消滅させた責任を負い、その損害の賠償を支払うべきということになります。

 この第9条により、不動産の所有者が他人の材料を取得することができる場合は、その理由に述べられているように、材料が動産としての性質を失うときに限ります。つまり、「性質による不動産」となったときに限るのです。その動産としての性質を失わないのであれば、動産の所有者はこれを取り戻すことができます。この区別は、「性質による不動産」と「用法による不動産」との区別に従うものです。例えば、柱は既にこれを家屋に築造した場合にはもはや1本の木ではなく、家屋の一部分を構成します。そのため、その所有者はこれを取り戻すことができません。また、書画はたとえこれを壁上に糊着しても依然として書画の性質を有し、これを家屋の一部分とみなすことはできません。そのため、その所有者はこれを取り戻すことができます。

 また、担保編第158条で動産の売主がその動産に有する先取特権を規定するにあたり、その動産が既に「性質による不動産」となった場合と「用法による不動産」になった場合とにつき、多少の差異があることを示しています。同条で「合体……」というのは、「性質によって不動産」となる場合を指すからです。

 さらに、不動産の所有者が遺言でその「性質による不動産」と「用法による不動産」とそれぞれ別に処分した場合には、この2種の不動産の区別、不動産と動産との区別をする必要があります。

 これらの区別が必要であるのはそのような場合です。そのため、所有者は任意に動産を不動産とすることはできません。たとえある動産を建物に釘付けしても、もともと不動産となるべき物品でなければ、不動産とはなりません。例えば、商人の看板は、これを釘付けにしても不動産とはなりません。

 

64 「用法による不動産」は動産に変わることがあります。動産が「用法による不動産」となるには、上に述べたようにある要件を具備しなければなりません。この要件を欠いていれば、元の動産のままです。ただし、仮に要件を失ったにすぎない場合にはその性質は変わりません。

 例えば、所有者が「用法による不動産」を分離して売却する場合には、その動産としての性質が復旧します。ただ所有者・買主についてそうするのではなく、第三者についてもそうなります。

 そのため、建物に抵当権を設定した場合でも、これに付属する物品で不動産となったものは、性質によると用法によるとを問わず、これを分離して売却した後は、抵当権者はその物品の買主に対して追及権を行使することはできません。

 「用法による不動産」の所有者が死亡してもその不動産としての性質は変わりません。むしろそれが確定します。そのため、通常の相続人はその不動産としての性質のままで相続します。死亡後に相続者がその性質を動産としても、その効力を死亡前に遡らせることはできません。

 所有者が遺言で「用法による不動産」をその付属する不動産と分離して処分した場合には、死亡するとこの不動産は動産に変化します。

 

6569 略(論説)

*1:動産の所有者が、その土地又は建物の利用、便益若しくは装飾のために、永遠又は不定の時間その土地又は建物に備え付けた動産は、その性質にかかわらず、用法による不動産とする。用法による不動産とは、次に掲げるものをいう。ただし、反対の証拠があるときは、この限りでない。

 一 土地の耕作、利用又は肥料のために備え付けた獣畜

 二 耕作用に備え付けた器具、種子、藁草及び肥料

 三 養蚕場に備え付けた蚕種

 四 樹木を支持するために備え付けた棚架及び杭柱

 五 土地に生ずる物品の化製のために備え付けた器具

 六 工場に備え付けた機械及び器具

 七 不動産の常用のために備え付けた小舟 その水流が公有に係り又は他人に帰属するときも同様とする。

 八 園庭に設置された石灯籠、水鉢及び岩石

 九 建物に備え付けた畳、建具その他の補足物及び毀損しなければ分離することができない扁額、玻瓈鏡、彫刻物その他各種の装飾物

 十 修繕中の建物より取り離して再びこれに用いる材料