【日本民法】条文総まくり

旧民法から現行民法まで。1条ずつ追いかけます。

財産編第1条【財産の定義】

財産編総則 財産及び物の区別

 

1 財産ハ各人又ハ公私ノ法人ノ資産ヲ組成スル権利ナリ*1

 

2 此権利ニ二種アリ物権及ヒ人権是ナリ*2

 

【現行民法典対応規定】

なし

 

今村和郎=亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之一』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

1 この総則は財産編の先頭に置かれています。総則は財産編だけに適用されるのでしょうか。その規定を見ると決してそうではないことがわかります。総則は民法全般に通ずる財産上の原則を定めています。今回発布された民法だけでなく、後に人事編が発布されれば、人事編もこの総則の適用を受けることになります。また、民法以外の法律についても、財産に関する特例がある場合は別として、すべてこの総則が適用されることになります。

 総則に定められている事項は3つに大別されます。①財産の定義、②財産の区別、③物の区別です。その概要は既に緒言(省略)のところで述べました。ここでは各項目を順に説明します。

 

2 本条は財産を定義しています。その要点は以下の通りです。

 一般に、土地・家屋・金銭・器物の類を「財産」といいます。しかし、日本民法でいう財産とは、土地・家屋そのものではありません。

 人が土地を所有・耕作してその果実を収穫するということ、家屋を所有しそこに住んで雨露を避けて健康を保つということ、他人がこうしたことを争うことはできません(これを争う者があれば、他人の権利を害しない限りで、土地の所有者・家屋の所有者は裁判所に訴えてこれを排除することができます)。こうしたものを「所有権」といいます。所有権がなければ、このような利益を得ることはできません。たとえ自分の目の前に100万坪の土地があっても、そこから利益を得ることはできません。土地そのものではなく、それに付着した自分の所有権こそが民法でいう財産に当たります。そのため、一般に土地を売却・贈与するというのは、実は土地の所有権を売却・贈与するということです。

 また、AがBのためにその田を耕作することを約した場合には、Aは耕作の義務を負い、BはAに耕作させる権利を有します。Aがその義務を履行すれば、Bはその履行から生ずる利益を得ることができます。Aがその義務を履行しなければ、Bはその権利を根拠として裁判所に請求し、Aの費用で他人に耕作させ、Aの違約より生ずる損害の賠償を請求することができます。これは、BがAに対する権利を有するからです。この権利がなければ、たとえ自分の目の前に100万の人がいたとしても、その人たちに耕作させることはできません。そのため、この権利は民法でいうBの財産なのです。

 こうしたことから、第1条にいう財産とは権利を指しています。

 
3  第1条に定義が特に掲げられているのは、物が財産だと考えるのが普通ですが、日本民法ではそうではなく権利を財産とするということを明らかにするためです。権利には種々のものがあります。単に権利が財産だとして、自らの有する多種多様な権利をすべて財産だとするのは大いに語弊があります。そのため、立法者は、財産である権利の種類を、「各人の資産を組成する権利」、「公私の法人の資産を組成する権利」と示すことにしました。この「資産を組成する権利」とはどのようなものを指すのでしょうか。「権利ではあるけれども資産を組成しないもの」とは、どのようなものなのでしょうか。この問題を明らかにしなければ、権利の中で財産であるものとそうでないものとの区別ははっきりしません。第1条には「資産を組成する」とあるので、資産がどのようなものであるかを明らかにしなければ、「財産である権利」とは何かがわかりません。資産については、西洋でもさまざまな学説があり、一言ではっきりと述べることは困難です。そのため、民法は手っ取り早く第2項で「財産である権利」は物権と人権との2種に限ることを明示しました。そして、そこにいう物権については次の第2条で説明してこれを列記、人権については第3条で説明し、これによって容易に「財産である権利」とは何かが分かるようにしました。その詳細は、第2条第3条の説明を参照してください。

 

 略(論説)

*1:財産とは、個人又は法人の資産を構成する権利をいう。

*2:前項の権利とは、物権及び人権をいう。