【日本民法】条文総まくり

旧民法から現行民法まで。1条ずつ追いかけます。

財産編第106条【用益権の存する建物の毀滅】

事変又ハ朽敗ニ因リテ用益権ノ存スル建物ノ全部カ毀滅シタルトキハ用益者ハ土地ニ付テモ材料ニ付テモ収益スルコトヲ得ス但建物カ用益権ノ存スル土地ノ従タルトキハ此限ニ在ラス*1

 

【現行民法典対応規定】

なし

 

今村和郎=亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之一』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

407 用益権が所有権消滅の原因と同一の原因によって消滅することは第99条に規定されています。物の全部の毀滅は所有権消滅の原因の1つなので、用益物が全部毀滅した場合には用益権が消滅することは当然です。

 しかし、どのような場合に全部が毀滅したとみなすべきかについては古くから議論があります。有形的に全部毀滅した場合、例えば家屋が洪水などのために流出し、桑田が海となってしまう場合など、その形跡がなくなってしまったときは問題ありませんが、建物が朽廃して崩壊した場合のように、なおその材料が残っているときは、これを全部毀滅したとみなすことができるか、それともそうみなすべきではないか、といった点で議論が分かれています。

 「ドマ」は、上の例で建物が崩壊するなどした場合には用益権が消滅するとしています。用益権は建物に設定されたもので、その建物が存在する土地・その建物を構成する材料に設定されたものではないので、建物の形状が変わり、ただ土地と材料とが残っているだけの状態になった場合には、建物がない状態に至ったために全部毀滅とみなさざるをえないとします。

 「ポチエー」は、「ドマ」とは反対に、物の形状が変わって他の物となっても用益権は消滅せず、なおその変形した物に行使できるとします。所有権は物の変形によって消滅せず、上の例の場合のようにその建物の所有者は建物が崩壊したり焼失したりしてもなお残った木・石などの材料になおその権利を行使できるのは当然だとするからです。所有権での物の全部毀滅というのが有形的に完全に滅失することを指すとすれば、用益権での物の全部毀滅もまた同様に解しなければならないとするのです。そのため、この点からすると、「ポチエー」の説は妥当だというべきでしょう。

 本条では、一方では建物の「全部毀滅」といい、他方では「土地についても材料についても」とします。このことからすると、日本民法では全部毀滅とは「ポチエー」の唱えるような有形的に完全に滅失することを指すのではなく、「ドマ」のいう変形を指しています。完全に滅失したものの材料は残っているということはないからです。

 なぜ建物が変形することによりその全部が毀滅したとみなし、これにより用益権を消滅させるのでしょうか。これはまた用益権を速やかに虚有権と合一させるためにほかなりません。

 建物について用益権が既に消滅した以上は、用益者はその敷地についても材料についても収益することができないのは当然です。たとえ以前はその敷地・材料が合体して1つの建物を構成していたにせよ、用益権は敷地や材料に設定されたのではなく、建物と称する1つの主たる物に設定されたにすぎないからです。

 しかし、土地に設定された用益権については、建物が毀滅してもそれによりその用益権が影響を受けることはありません。土地は主で、建物は従です。従のために主が害されるということはないからです。

*1:事変又は朽廃によって用益権の存する建物の全部が毀滅したときは、用益者は、土地についても、材料についても、収益することができない。ただし、建物が用益権の存する土地の従たるものであるときは、この限りでない。