【日本民法】条文総まくり

旧民法から現行民法まで。1条ずつ追いかけます。

財産編第112条【裁判所による使用権の行使方法等の決定】

設定ノ権原又ハ其後ノ合意ヲ以テ土地ノ使用権ヲ行フノ方法ヲ定メス又ハ住居権ヲ行フ可キ建物ヲ定メサルトキハ当事者立会ノ上裁判所其意見ヲ聴キテ之ヲ定ム*1

 

【現行民法典対応規定】

なし

 

今村和郎=亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之一』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

419 使用者は用益者と同じくその物について使用・収益をすることができるのでしょうか。それとも、その物については所有者がこれを保持してその物から生じる果実を取得し、その中から使用者の需用に供すべき部分を使用者に交付すべきなのでしょうか。この点についてはフランス民法でもはっきりしないので、学者の説明はさまざまに分かれていました。しかし、有力説は使用者にその物から収益させるべきだとし、今日では反対説はほとんどなくなっています。

 日本民法では、第110条で明らかに使用権が用益権の1つであることを示していますので、この点については疑いを容れる余地はありません。所有者はその物を使用者に交付し、使用者はその物について用益権を行使します。住居権については、使用者が交付された建物に居住します。これは実に明々白々のことで、法律の規定を要するまでもありません。

 しかし、設定権原、例えば贈与でこの権利を設定するに当たり、あらかじめその土地の使用権を行使する方法を定めなかった場合や、住居権を行使すべき建物を定めなかった場合はどうでしょうか。この場合でも所有者はなおその土地・建物の全部を使用者に交付しなければならないとすれば、使用者はその物の一部について権利を有するにすぎないので、自分の需用を充足するだけの果実を得れば足りるとして、その土地の耕作をないがしろにしたり、自分の居住する居室だけを保存して他の居室を荒廃させて顧みなかったりして、それにより所有者を害するおそれが生じます。この場合には、所有者と使用者の合意で新たにこれを定めるのが相当です。

 所有者と使用者が合意しない場合には、一方の申立てにより、やむをえず裁判所がこれに干渉するほかありません。この場合には裁判所はどのようにこれを定めるべきでしょうか。本条はただ「当事者が立ち会い、裁判所がその意見を聴取してこれを定める」とするにとどまり、これを定める方法を示していません。

 この点について、フランスの学者の説は3つに分かれて必ずしも一定していません。A説は、その物は所有者が占有し、果実を使用者に払わせるべきだとします。B説は、その物を適当に分割して各自に収用させるべきだとします。C説は、裁判所の所見に従い、A説かB説のようにすべきだとします。私はB説が妥当と考えています。この場合には、使用者がその物に権利を有するのと同じく、所有者もまた使用者の用益しない部分について権利を有し、両者の権利が互いに衝突するからです。このように、両者の権利は衝突するので、これを調和させる必要があることは当然ですが、一方の権利を他方の権利の犠牲にするわけにはいきません。A説は一方の権利を擬制にすることを認め、C説もまたこの結果が生ずることを認めており、ともに法理に適しないものとなっています。そのため、B説により、その土地・建物に使用権・住居権を行使すべき部分を定め、これにより両者の権利を併行させるべきでしょう。ただし、この方法はそもそも完全なものではありません。両者にとって不便・不利なこともあるでしょうが、これは両者が合意で定めなかった結果で、その不便・不利は、これを甘受しなければなりません。

*1:設定の権原又はその後の合意によって土地の使用権の行使方法を定めず、又は住居権を行使すべき建物を定めなかったときは、当事者が立ち会い、裁判所がその意見を聴取してこれを定める。