【日本民法】条文総まくり

旧民法から現行民法まで。1条ずつ追いかけます。

財産編第45条【用益権の設定①】

第1款 用益権の設定

1 用益権ハ法律又ハ人意ニ因リテ設定スルモノトス*1

 

2 法律ニ因ル用益権ノ設定ハ別ニ定ムル法律ノ規定ニ従フ*2

 

3 人意ニ因ル用益権ノ設定ハ所有権ノ取得及ヒ移転ニ関スル規則ニ従フ*3

 

4 又用益権ハ有償又ハ無償ニテ譲渡シタル財産ノ上ニ之ヲ留存シテ設定スルコトヲ得*4

 

5 時効ヲ以テ用益権ノ取得ヲ証スル条件ハ時効ヲ以テ完全ノ所有権ノ取得ヲ証スル条件ニ同シ*5

 

【現行民法典対応規定】
なし

 

今村和郎=亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之一』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

219 本条は、用益権の設定、つまり用益権がどのようにして発生するかを示すものです。以下では、民法は各種の物権につきその設定方法を示しています。しかし、第1章の所有権については示されていません。所有権の発生については特に取得編があり、また本編の中の各所に取得方法についての定めが置かれています。そのため、所有権の発生についてはわざわざその章に規定が置かれていないのです。

 用益権を設定するには2種類の方法があります。第1に法律による設定、第2に合意による設定です。

 

220 法律により用益権を設定する例はわが国にはまだありません。そのため、本条第2項で「別に定める法律の規定に従う」としています。将来、人事編の発布とともにこれを定めるという趣旨でしょう。

 ここで試しにフランス民法の2つの例を挙げてみます。

  幼年の子が財産を有する場合には、父はその財産について用益権を有することを定めています。つまり、法律が、子の財産の用益権を父に授与するのに子の承諾を不要とするのです(第384条)。これは純然たる用益権つまり物権の設定ではなく、一種の収益権を付与するにすぎないとする学者もいます。

 日本民法の原案では、父母が子の財産の上に有する収益権を「法律上の用益権」としていましたが、すべて削除されました。財産編が人事編に関する事項を定めてしまうことになってしまうためです。

  死亡者に子孫がなく、兄弟姉妹もなく、兄弟姉妹の子孫もなく、父方か母方の一方だけに尊属親がある場合には、その存在する一方の尊属親は死亡者の遺産の半分を、他の半分は存在しない尊属親の最近親属がこれを相続し、存在する尊属親が死亡者の父か母である場合には、自己の相続しない半分の財産につき用益権を有します。例えば、死亡者にはもともと兄弟姉妹がなく、その母も既に死亡して父だけが残っており、母の兄つまり死亡者の伯父がある場合には、遺産を100円とすると、父は50円を相続し、伯父は他の50円を相続しますが、父は伯父の相続した50円につき用益権を有します。

 これらが「法律上の用益権」に当たります。

 「法律上の用益権」には特別の規定が必要な場合があります。その場合にはその用益権を定める法律の中にこれを規定しますが、一般規則は本章の規定となります。

 

221 「合意により用益権を定める」とは、契約その他の行為により用益権を設定することを指します。つまり、贈与・遺贈・売買・交換などがこれに当たります(贈与・遺贈の章はまだ制定されていません)。

 本条には、用益権の設定方法はすべて所有権の取得・移転の規定に従うとあり、その書きぶりは絶対的なもののように読めますが、所有権の取得・移転の方法をことごとく用益権に適用することはできません。例えば、先占を用益権に適用するのは困難です。また、用益者が死亡しても用益権はその相続人に移転せず、消滅します。

 本条は、主として贈与・遺贈・売買・交換のような行為を指しています。その行為の有効・無効、第三者に対して効力を生ずる手続については、すべてその関係する各章の規定に従います。本章には、既に有効に成立した用益権の効力に関する規則が置かれているにすぎません。

 

222 そもそも所有権を有する者は、これを虚有権と用益権との2個に分別し、そのいずれか一方だけを他人に付与することができます。つまり、その用益権だけを他人に付与した場合は、上に掲げた事例のようになります。これに対し、その虚有権だけを他人に付与し、自分が用益権だけを有する場合は、本条第4項の掲げるところです。これを「留存して設定する」といいます。

 前に出した事例はすべて他人の老後を保全しようとする趣旨のものでした。ここにいう場合は、それとは異なり、自己の老後を保全し、死後は所有権が他人に移転することを目的としています。

 

223 時効もまた用益権を発生させる一原因となります。例えば、その真の所有者ではない者から用益権を譲り受け、ある一定の期間これを占有した場合には、時効により所有権を取得するのと同様に、用益権を取得することができます。

 「時効により取得を証明する」とは、時効は取得の方法ではなくその証拠であるという学説を念頭に置いた表現にすぎません(第28条第43条参照)。

 本条5項は、これを設けないのが適当でしょう。これについては、第43条で論じました。

*1:用益権は、法律又は人意により、設定する。

*2:法律による用益権の設定は、別に定める法律の規定に従う。

*3:合意による用益権の設定は、所有権の取得及び移転に関する規則に従う。

*4:用益権は、有償又は無償で譲渡した財産の上にこれを留存して設定することができる。

*5:時効により用益権の取得を証明する条件は、時効により完全な所有権の取得を証明する条件と同様とする。