【日本民法】条文総まくり

旧民法から現行民法まで。1条ずつ追いかけます。

財産編第76条【用益者の担保提供義務】

用益者ハ用益権消滅ノ時負担ス可キ返還及ヒ償金ノ為メ保証人ヲ立テ又ハ他ノ相応ナル担保ヲ供スルニ非サレハ収益ヲ始ムルコトヲ得ス*1

 

【現行民法典対応規定】

なし

 

今村和郎=亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之一』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

316 用益者に用益物を保存させるということは、民法で特に注意しているところです。他人の所有物については深く注意しないのが人情の常で、用益の目的物は滅失・毀損の危険が非常に大きくなるからです。既に用益者に目録・形状書を作成させる規定がありますが、まだそれでは虚有者の権利を確保するには不十分です。そのため、本条でさらに担保拠出の規定を置いて、これを確かなものとしています。

 用益者は、用益権消滅時に用益物すべてを返還する義務を負い、これに損害を与えた場合にはそれを賠償する責任を負います。そして、これらの義務の履行を保証するために担保を拠出しなければなりません。これを供出しない間は、虚有者は用益物を引き渡さない権利を有します。これが第49条で明言されているところです。

 

317 保証人は、義務者に代わって義務を履行することを約諾する者です。保証人については、担保編の保証人の章に詳しく規定されています。

 用益者が供出すべき担保は保証人に限られません。他の担保を供出することもできます。例えば、連帯債務者を立ててともに義務を負担する方法もありますし、質入や抵当権のように物上担保を供出する方法もあります。

 本条を一見すると、保証人を立てることを主とし、保証人を立てることができない場合には他の担保を供出するものとしているようですが、法律の趣旨はそうではありません。フランス民法では、用益者の義務を担保するために保証人を立てることのみを掲げているため、フランス民法を解釈して、用益者は保証人のほかに物上担保のようなものは供出することができないかという問題を設けてこれを議論する者もいます。日本民法は他の相応の担保を供出することを定め、それにより保証人に限定しないことを示しています。単に相応の担保を供出させることを示すだけでよいともいえますが、ここにまず保証人を掲げたのは、フランス民法の行文を模倣する過ちを犯したものとでもいえるでしょうか。

 

318 担保を供出されることを待たずに虚有者が用益物を引き渡した場合には、虚有者は以後担保の供出を請求する権利を喪失するのでしょうか。

 民法は推測で権利を放棄したものとはみなしません。虚有者が単に用益物を引き渡しただけではその担保要求の権利を放棄したとみなすことはできません。そのため、虚有者はいったん用益物を引き渡した後も、いつでも担保の拠出を要求することができます。

 

319 略(論説)

*1:用益者は、用益権消滅の時に負担すべき返還及び償金のために、保証人を立て、又は他の相応な担保を供するのでなければ、収益を始めることができない。