【日本民法】条文総まくり

旧民法から現行民法まで。1条ずつ追いかけます。

財産編第89条【用益物に賦課される租税公課の負担】

1 用益物ニ賦課セラルル毎年通常ノ租税及ヒ公課ハ其一般ニ係ルモノト一地方ニ係ルモノトヲ問ハス用益者之ヲ負担シ其求償権ヲ有セス*1

 

2 用益権ノ継続間用益物ニ賦課セラルルコト有ル可キ非常ノ公課又ハ租税ニ付テハ虚有者ハ其元本ヲ払ヒ用益者ハ此時間毎年ノ利息ヲ弁償ス*2

 

3 非常ノ公課又ハ租税ト看做スモノハ左ノ如シ

第一 強要ノ借入

第二 増税又ハ新税 但其臨時又ハ非常ノ性質カ法令ニ明示アルトキ又ハ明ニ事情ヨリ生スルトキニ限ル*3

 

【現行民法典対応規定】

なし

 

今村和郎=亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之一』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

349 毎年とは、年々付加されるものという意味で、臨時の賦課ではないという意味です。通常とは、第2項にいう非常に対する意味です。公課とは、租税の類で、例えば、備荒貯蓄金・衛生費・川浚費などのようなものです。

 そもそもふつう毎年取り立てる諸税諸掛は、財産の元本を基礎とし、その収益を目的として賦課するものです。毎年元本から徴収するとすれば、元本は数年で竭尽してしまうでしょう。そのため、租税は収益から徴収するのが原則です。用益者はすべて収益を取得する者なので、収益を目的とした租税公課を負担することは当然です。これを虚有者に負担させるとするなら、虚有者は元本から支弁せざるをえず、結局その財産を減耗することになります。

 これらの賦課は全国のためにされるものもあれば、1地方のため、つまり地方税・市町村税のようなものがあります。すべて同一の規定に従います。

 非常の賦課に関しては、用益者はこれを負担しません。そもそも非常の租税公課は必ずしも元本のみに賦課するものではありませんが、収益のみでこれを支弁することが難しい場合が少なくありません。また、非常の賦課は臨時になされるもので、虚有者は永く所有物を有する者であるため、一時多額の賦課を負担しても、永久の年月の間にその損益を償うことができます。これに対し、用益者の権利はその継続に期限があります。一時巨額の賦課を負担しても、その収益で支弁することができません。その用益権が消滅すれば、用益者は大きな損失を受け、ついにこれを償う方法を得ないことになるでしょう。そのため、非常の賦課は性質上用益者の負担すべきものではないとしました。

 しかし、虚有者が非常の賦課を弁済した場合には、その元本を減ずること、つまり用益物の一部を減ずることになります。用益者がなお依然として収益をして、少しも虚有者に弁償しない場合には、元本が減少したにもかかわらず収益を取得することとなり、不当な利得を得させることになります。これにより、用益者に、虚有者に対しその出費した額に相応する利息を弁償させるわけです。所有権から用益権を支分させなければ、所有者は元本・利息ともに負担すべきことになるので、これを支分させ、それにより虚有者が元本を負担し、用益者がその利息を負担することとしたのは、事理当然の制度といえるでしょう。

 非常の賦課と通常の賦課とを区別するのは、虚有者と用益者との義務が分かれるところであり、非常に大切な関係があります。この分界は非常に明瞭にし難いものです。本条にその大範囲を示そうとして2種類の事例を掲げています。

 ① 強要の借入れは、わが国でも維新前には御借入や御借上と称して、人民資力の富度に応じて君主が借入れをしていました。この種の借入れは、多くは軍用に充てる目的で、後には諸藩でも藩主の雑費に充てていました。その利息は稀には支払われましたが、人民間の契約のように弁済されたわけではありません。また、元本も弁済されたりされなかったりという実況でした。維新以来この種の処置により官庫収入を求めたことはありません。財政上大いに整頓がなされたためでしょう。西洋でもわが国と同様の事情により古くは借入れがなされていましたが、今はほとんどなされることがないといわれています(昔の借入れと称するものの多くは土地の所有者に賦課したもので、非常に不公平でした)。

 借入れは一時のことであり、財産のみに課すのではなく、財産を目安としてその所有者に課すという趣旨を帯びているので、非常の賦課として虚有者が負担すべきものの典型例です。その非常賦課の性質については、異論はほとんどないでしょう。

 ② 増税や新税も非常賦課に属する場合があります。増税とは旧来存するある税目の価額を増して賦課するという意味であり、例えば1割、2割を増課するようなものです。

 この種の租税は非常のものと通常のものとを区別することが困難です。同じく増税・新税にも非常のものと通常のものとがあります。そのため、ただし書が置かれています。しかし、まだ判然としません。ただし書にいうように、増税・新税を定める法律の中に臨時・非常の性質を明言する場合には問題はありませんが、必ずしもこれが明言されているとは限りません。その賦課する時の事情によってもまた非常の性質を有することを認定することができます。例えば、特に外国との戦乱のために課税することが明確な場合です。

 このほか事情により明らかに非常の性質と認定することができない場合には、すべてこれを通常税とするしかありません。

 

350354 略(論説)

*1:用益物に賦課される毎年通常の租税及び公課は、その一般に係るものと1地方に係るものとを問わず、用益者がこれを負担し、その求償権を有しない。

*2:用益権が継続する間、用益物に賦課されることがある非常の公課又は租税については、虚有者がその元本を支払い、用益者はこの間毎年の利息を弁償する。

*3:非常の公課又は租税とみなすものは、次に掲げるものをいう。

 一 強要の借入

 二 増税又は新税 ただし、その臨時又は非常の性質が法令に明示されているとき、又は明らかな事情から生ずるときに限る。