【日本民法】条文総まくり

旧民法から現行民法まで。1条ずつ追いかけます。

財産編第124条【前条までの規定に反する賃貸借】

1 賃借人ハ前数条ニ反シタル賃貸借又ハ其更新ノ無効又ハ短縮ヲ請求スルコトヲ得ス*1

 

2 然レトモ所有者其権利ヲ自在ニスルコトヲ得ルニ至リタルトキハ賃借人ハ所有者ノ認諾スルヤ否ヤノ意思ヲ第百十九条ニ区別シタル賃借物ノ性質ニ従ヒ五日、八日、十五日又ハ三十日ノ期間ニ述フルコトヲ常ニ要求スルコトヲ得*2

 

3 所有者カ其意思ヲ述フルコトヲ拒ムトキハ賃借人ハ起初又ハ更新ニ於テ定メタル如ク賃借期間ヲ維持セント述フルコトヲ得*3

 

【現行民法典対応規定】

なし

 

亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之二』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

16 第119条から前条に至るまでの規定は、いずれも所有者の利益を保護するために設けられたものです。そのため、その規定に違反すると、所有者はその権利を自由に行使することができるようになり、その不適法な賃貸借や更新を無効にしたり、制限を超える賃貸借の期間を制限までに短縮したりすることができ、賃借人はこれを争うことができません。所有者がその無効や短縮を求めない場合には、賃借人がこれを求めることができるのでしょうか。法律は明確にその権利がないことを定めました。当初不適法な契約を締結し、これにより所有者に不利益を及ぼすことをしながら、後日自分が不便・不利な状態になると、たちまちこれが不適法であることを理由としてその契約の無効等を主張するような行為は放縦専横の処置であり、これを許す必要はないからです。

 しかし、所有者が、その権利を自由に行使できようになったにもかかわらず、無効や短縮を請求せず、その不適法な契約を認諾せず、その意思が果たしてどこにあるのかを知り難い場合には、賃借人の地位は不安定となり、1日たりとも安心することができなくなるでしょう。これもまた法律がいたずらに看過すべきものではないので、この場合には、賃借人から所有者に対し、その賃貸借や更新を認諾するかどうかの意思を申述することを要求できることとしました。この認諾するかどうかの返答は、賃借物の性質に従い、以下の期間内にしなければなりません。

  動産については5日以内。

  建物については8日以内。

  普通の土地については15日以内。

  牧場・樹林については30日以内。

 この期間を過ぎても所有者が意思を申述しない場合には、その賃貸借をそのまま継続しても異論がないものと推知すべきです。そのため、この場合には、賃借人からその賃貸借契約の締結当初や更新時に定めた期間を維持すると申述することができます。なるべく速やかに賃借人の権利を確実なものにするため、このような規定が置かれています。

*1:賃借人は、前条までの規定に反する賃貸借又はその更新の無効又は短縮を請求することができない。

*2:前項の規定にかかわらず、所有者がその権利を自由に行使することができるに至ったときは、賃借人は、所有者が認諾するかどうかの意思を、第119条に区別した賃借物の性質に従い、5日、8日、15日又は30日の期間内に申述することを常に要求することができる。

*3:所有者が前項の意思を申述することを拒むときは、賃借人は、契約締結時又は更新時に定めたように賃貸借の期間を維持することを申述することができる。