【日本民法】条文総まくり

旧民法から現行民法まで。1条ずつ追いかけます。

財産編第130条【第三者による収益の妨害等】

賃借人カ第三者ヨリ収益ノ権利ニ妨害又ハ争論ヲ受ケ其原因賃借人ノ責ニ帰ス可カラサルトキ賃借人ヨリ合式ニ告知ヲ受ケタル賃貸人ハ其訴訟ニ参加シテ賃借人ヲ担保シ又ハ損害ヲ賠償スルコトヲ要ス*1

 

【現行民法典対応規定】

なし

 

亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之二』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

27 本条は賃借物に関する妨害・争論について賃貸人の責任を規定したものです。

 一般に、賃貸人は賃借人に安全に使用・収益させる義務を負います。そのため、賃貸人自らその賃借人の使用・収益を妨害することはもちろん、第三者がこれを妨害しようとする場合には、賃貸人は進んでその妨害を排除しなければなりません。しかし、第三者の妨害にもさまざまなものがあり、一概にその排除の責任を賃貸人に負わせることはできません。そのため、その区別が設けられています。

 妨害は、「事実上の妨害」と「法律上の妨害」とに分けられます。「事実上の妨害」とはどのようなものでしょうか。「ポチエー」は、第三者が賃借物について何らの権利も主張せずに賃借人の収益を妨害する場合には「事実上の妨害」があるとします。そのため、例えば畜類を暴行して賃借地に放ったり、賃借地の収穫を盗み取ったりすることは、すべて「事実上の妨害」に当たり、「権利上の妨害」ではありません。では何を「権利上の妨害」とするのでしょうか。第三者が賃借物に権利があると主張したり、賃借人を排斥したり、地役権を行使したりするような場合がこれに当たります。この「権利上の妨害」については、賃貸人に担保の責任はありません。この妨害は、賃借人が監視を怠ったとか、他に私怨があるなどの理由により生じたもので、賃借人自らが排除すべきものだからです。かつ、この妨害は犯罪で、これによって賃借人に賠償請求権が生じます。一方でこうした権利を有しながら、なお賃貸人に担保を要求することを認める理由はないでしょう。

 「権利上の妨害」については、賃貸人に担保の責任があることを原則とします。日本民法では、フランス法とは異なり、賃借権を物権とするので、第三者が賃借物に所有権を有すると主張してその取戻しを求めたり、地役権を有すると称してこれを行使しようとしたりするような場合には、賃借人自ら第三者に対抗してその請求を拒否することができます。しかし、第三者が真の所有者や真の地役権者であれば、賃借物は第三者の手に帰し、賃借権を行使することはできなくなります。また、第三者により地役権を賃借物に行使されれば、収益を妨害されることになります。そのため、こうした場合には賃貸人に対し損害の賠償を求めることができるわけです。

 第三者が収益権を妨害したり、争論を生じさせたりした場合には、賃借人がこれを拒絶することができることは既に上に述べた通りです。しかし、賃借人はその物の所有者ではないので、賃貸人が所有者であることや地役権が設定されていないことなど第三者に対抗することができる証拠を有しないのがふつうです。こうした反対の証拠がないのに自分1人でその訴訟に当たってついに敗訴することになれば、その敗訴は賃貸人を参加させなかった過失によるもので、これは賃借人が自ら招いたものでもあるので、賃貸人に対して損害の賠償を求めることはできないのは当然です。ただ賠償を求めることができないだけでなく、場合によっては賃貸人に対して賠償の責任を負うこともあります(第142条第96条)。そのため、賃貸人に告知して訴訟に参加させ、これにより担保の義務を尽くさせることを十全な方法としたのです。

 そこで、賃借人が妨害・争論を受けたことを合式に告知した場合には、賃貸人は義務としてその訴訟に参加し、賃借人を担保しなければなりません。この義務を尽くさなかったために賃借人が敗訴して損害を受けた場合には、その賠償の責任を免れることはできません。

 しかし、「権利上の妨害」については、必ずしも賃貸人がこれを拒絶する責任を負うものではありません。賃借人の行為により惹起された場合には、賃借人は単独でその責任を負い、賃貸人に対して何らの請求もすることができません。このことは法文に「その原因が賃借人の責めに帰することができないものであるとき云々」と明らかに規定してあるので、これを推知することができます。例えば、賃借人はその賃借物を転貸し、その転借人との間に争論を生じた場合には、賃借人自らこれを拒絶しなければなりません。

*1:賃借人が第三者より収益権に妨害又は争論を受けた場合において、その原因が賃借人の責めに帰することができないものであるときは、賃借人より合式に告知を受けた賃貸人は、その訴訟に参加して賃借人を担保し、又は損害を賠償しなければならない。