【日本民法】条文総まくり

旧民法から現行民法まで。1条ずつ追いかけます。

財産編第6条【有体物・無体物の区別】

1 物ニ有体ナル有リ無体ナル有リ*1

2 有体物トハ人ノ感官ニ触ルルモノヲ謂フ即チ地所、建物、動物、器具ノ如シ*2

3 無体物トハ智能ノミヲ以テ理会スルモノヲ謂フ即チ左ノ如シ
第一 物権及ヒ人権
第二 著述者、技術者及ヒ発明者ノ権利
第三 解散シタル会社又ハ清算中ナル共通ニ属スル財産及ヒ債務ノ包括*3

 

【現行民法典対応規定】

本条1項

85条 この法律において「物」とは、有体物をいう。

 

今村和郎=亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之一』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

34 天地間の万物の中には、我々が五官に触れて感受するものがあります。また、我々の知識だけで理解することができるものがあります。例えば、地所・建物は、見て、触れることができます。また、鳥獣・魚介の肉は、見て、触れ、味わい、嗅ぐことができます。また、さまざまな香臭は、鼻で感じることができます。そのため、これらすべては有体物です。

 また、例えば、権利・義務は、眼・耳・鼻・舌・身のどれにも触れることなく、ただ我々の脳裏で理解することができるだけで、いわば意識で感じるものです。そのため、これらは無体物です。

 本条に掲げた事例から考えると、民法で無体物とは主として権利・義務を指します。第1号・第2号にはすべての権利を掲げ、第3号には権利義務を合わせて掲げています。

 本条第1号には、第2条第3条の物権と人権を掲げ、第2号には、第4条の権利を掲げています。第2号の諸権利は第1号の中にあるので、重複して掲げる必要はありません。

 第1号・第2号の諸権利は、既に上で説明しました。ここでは第3号に掲げたものを説明しましょう。


35 「会社」云々とは、無形人である会社が解散して清算中となっているものを想像したものです。

 会社が解散してまだ清算を結了していない間は、あたかも肉体人が死亡したものの財産相続の分配を終えていない間のようなものです。そこに所属する財産には動産・不動産・債務など様々なものがありますが、すべてこれを一団と見て、その名称を「権利及び債務の包括」としました。「包括」とは、数種のものを一団とみなしてつけた名称です。不動産を指すこともあれば、動産を指すこともあります。総不動産と総動産を合わせて指すこともあります。そのため、「包括」という場合には、財産の中の地所・建物・金銭・器物・種々の義務それぞれ指すのではなく、これらのものを総括してそう呼んでいるのです。本条では「権利及び債務の包括」とありますが、ここでは総不動産・総動産・総債務をすべてあわせてそう呼んでいます。そのため、「包括」も権利・義務にほかならず、これを無体物としたのです。


36  「共通」とは、夫婦がともに財産を有したり、水利土工会のようにある組合がともに財産を有したりするような場合を指す名称です。「ともに財産を有する」という状況は、会社が財産を有するのと同じで、夫婦や組合というものが1個の無形人となっているものと想像したものです。その名称を区別して、一方を「会社」とし、他方を「共通」とするのは、法律上の差異があるからです。「会社」は「営利を目的とする組合」という意味で、「共通」は「営利を目的としないもの」を指しています。これについては、財産取得編の会社の章を参照してください。

共通を構成する無形人がなくなった場合には、これを清算する必要があります。清算中となった場合は会社が解散した場合と類似します。そのため、その権利・義務を合わせてこれを包括物とし、無体物としました。その理由は前の例と同じです。

無体物はこのほかにもあります。例えば商号です。また、人の身分例えば子である身分は無体物で、権利の目的となります。ただし、民法はこれを財産には数えていません。

 

37  ここで注意すべき点があります。肉体人が死亡したり、法律上あるいは事実上無形人となる団体が廃絶したりするのでなければ、財産の包括を論じることはできないという点です。なぜなら、はじめから1個の人が有する一団の資産ではない場合、例えば数人がある権利を有し、ある義務を負う場合には、その権利・義務は実は各自がこれをそれぞれ有し、それぞれで負担するもので、包括物とはなりません。

 共通と共有とは、実は異なるところはありません。ともにある物が数人に共属することをいいます。その共有者は直接にその物を有するわけではありません。そのため、直接にその物を処分することができない場合があります。分割してはじめて各自が直接に物を有します。以下の所有権の章にある共有に関する論説(略)を参照してください。


38  そもそも天地間の万物は、有体・無体のいずれかです。性質による区別で、人が設けた区別ではありません。自然にあるものです。そのため、これを区別の第1に置いたのです。

 物の有体・無体の区別は、法律上必要です。例えば、売買譲渡で権利の移転時期・担保・占有・時効・差押えなどにつき、物が有体か無体かにより規則が異なることがあります(第180条第527条・財産取得編第68条以下・証拠編第147条・訴訟法第566条参照)。

 

39 (論説)

*1:物とは、有体物及び無体物をいう。

*2:有体物とは、地所、建物、動物、器具のように、人の感官に触れるものをいう。

*3:無体物とは、知能のみをもって理解することができるものをいい、次に掲げるものをいう。
 一 物権及び人権
 二 著述者、技術者及び発明者の権利
 三 解散した会社又は清算中である共通に帰属する財産及び債務の包括