【日本民法】条文総まくり

旧民法から現行民法まで。1条ずつ追いかけます。

財産編第71条【動産目録等の作成】

第3款 用益者の義務

用益者ハ用益物ノ占有ヲ始ムル前ニ虚有者ト立会ヒ又ハ合式ニ之ヲ召喚シ完全精確ニ動産ノ目録不動産ノ形状書ヲ作ルコトヲ要ス*1

 

【現行民法典対応規定】

なし

 

今村和郎=亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之一』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

305 用益者は非常に大きい義務を負担しています。用益権には弊害が多い上、用益権はその多くが無償で設定されるので、特に用益者に義務を負担させる場合があるからです。これが本款を設けてその義務に関する規則を詳細に掲載した理由です。

 

306 本条には、用益者が動産の物品目録や不動産の形状書を作る義務を負担することが定められています。

 「動産の目録」とは、すべての動産を列記し、その数量・品位等を記すものです。例えば、金穀のようなものはその員数を記し、器物・家具のようなものはその新旧完欠等を記し、書画器物の類であればその筆者・作者をも記します。すべてその代価を後日知ることができるようにするためです。

 「不動産の形状書」もまた同様の目的で作ります。例えば、田畑か、宅地か、建物か、田地の模様はどうか、建物であれば新築か、修繕を加えたものか、朽廃に属するかなどを詳細に記します。

 動産には種々の物品があり、これを列記するのが主です。そのため、目録といい、不動産はその形状を記載することを主とするためこれを形状書といいます。動産については形状を記さずともよいというわけではありません。その名目は異なるものであっても、その目的とするところは1つです。

 用益者は、用益権が継続する間は用益物を占有するため、その間虚有者はこれを監督することができません。必ずしも用益者は悪意で用益物を毀損するわけではありませんが、他人の所有に属する物を使用する場合には、人情として自己の物に対するような注意をしません。懈怠に至ることも少なくありません。そのため、物に損害を与えることがよくあります。用益者は、用益権消滅の時、用益物を虚有者に返還する責任を負いますが、その時に虚有者が物品を毀損したと主張し、用益者はそうでないと主張した場合、これを証明することは非常に困難でしょう。本条に従って目録・形状書を作っていれば、用益者はこの書類によって物品を返還すればよく、またたとえ虚有者が不当に損害の賠償を請求しても、それが不当であることを証明することは容易です。そのため、目録・形状書は単に虚有者の権利を保護することのみを目的とするのではなく、用益者の権利を保護する目的も含んでいます。

 用益者は用益物の占有を始めるに先立ってこの目録・形状書を作ることが必要です。一度占有すれば、既にその過失により物品を毀損していてもこれを証明することは困難だからです。

 目録・形状書を作るには、虚有者の立会いが必要です。用益者1人で作ったものには信を置くことができないからです。しかし、虚有者が立ち会わなければ用益者は目録・形状書を作ることができないとすれば、用益者の占有は遅延し、それにより損害が生じることがあるので、正式に虚有者を召喚してもなお立ち会わない場合には、用益者はその立会いを待たずに目録・形状書を作ることができます。このようにして作った目録・形状書は、これにより虚有者に対抗することができます。この末の場合は次条にこれを規定しています。

*1:用益者は、用益物の占有を始める前に虚有者と立会い、又は合式にこれを召喚し、完全精確に動産の目録、不動産の形状書を作成しなければならない。