【日本民法】条文総まくり

旧民法から現行民法まで。1条ずつ追いかけます。

財産編第58条【畜群の用益】

種類及ヒ員数ノミヲ以テ定メタル畜群ノ用益者ハ保存ヲ要セサル部分ヲ毎年処分スルコトヲ得但其子ヲ以テ全数ヲ保持スルコトヲ要ス*1

 

【現行民法典対応規定】
なし

 

今村和郎=亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之一』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

269 畜群は、第16条第3号にいう集合物で、一群の獣畜を1団の物とみなしたものです。その上に用益権を設定した場合には、用益者は群の中の頭数を保存する義務を負います。これは他の物の用益者がその物を保存する義務を負うようなものです。しかし、用益者は所有者のように用益物について収益することを原則としますから、その頭数の中で充分成長して所有者でもこれを売却するようなものがあれば、用益者もまた同様にこれを売却することができます。ただし、用益者は頭数を保存する義務を負うので、その処分により生じた欠缺を補うことが必要です。つまり、毎年生ずる子供でこれを補うわけです。

 「種類及び員数のみで定めた」とは、例えば、単に馬何頭、牛何頭の一群というようなものです。つまり、集合物とみなした場合をいいます。何号、何毛色の馬というようなものは特定物となります。このような場合、用益者は第53条によってその権利を行使します。

 

270 畜群の用益者がある頭数を処分し、産出した子でその欠缺を補った後、流行病のためにその畜群の頭数を減らした場合には、用益者はその減少の責任を負わないのでしょうか。

 予見できない流行病はいわゆる不可抗力で、用益者にその責任を負わせることができないのはもちろんです。しかし、もともと用益者は善良な管理人のように用益物を保存する義務を負っています(第84条)。例えば、100頭の畜群の中で20頭を処分し、これを他の20頭で補い、なお残余の子があればことごとくこれを売却するようなことは、決して善良な管理人がすることではありません。不意の出来事のために頭数を減ずることがあっても、そのためにあらかじめ補うための獣子を備え置く注意をしておくべきだからです。そのため、余分の頭数をことごとく処分することは、第84条の規定に背くものであり、多少の責任を負うことになります。

そもそも用益権は用益物の毀滅によって消滅するのを原則とします。そのため、畜群がすべてことごとく死亡すれば、それにより用益権は消滅します。しかし、その中の1頭でもなお存在している間は用益権は消滅しません。そのため、用益者はこれを増殖して元の頭数を回復する義務を負います。ただし、自己の過失によって頭数を減らしたのでなければ、その賠償の責任を負いません。

 

271 獣畜の取引で1頭を取引することはわが国でも常のことですが、畜群として数頭、数十頭を合わせて取引することについては、わが国に古い慣行がありません。近時では牛・羊・鶏・豚を飼養することが多くなり、いわゆる畜群というものの取引もあるようです。しかし、本条がいうように処置することはなお非常に稀であるようです。

 原案では単に畜群とせず、馬群・牛・羊・豚・鶏・蚕虫などの語があり、これを修正して「種類及び員数で定めた」云々としました。しかし、その意義を変じたものではありません。そのため、本条は牛・羊だけでなく種々の畜類についてこれを適用すべきものです。

 

272 本条と第53条とが同じく獣畜の用益権について定めた規則を掲げています。これらには同じではないところもあるので、これを説明しておきます。
 第53条は、第16条にいう特定物の上に設定した用益権の規定です。本条は上にいうように同条にいう集合物の上に設定した用益権を掲げています。

 そもそも特定物上の用益者はその物についてだけ収益し、これを保存する義務もまたまたその物に限って負います。例えば、特定物として馬数頭の上に用益権を設定した場合には、用益者はもとよりこれを保存する義務を負いますが、不可抗力、つまり疾病や老衰によりその中の1頭・数頭の馬が死亡したときは、その責任はもちろん用益者に帰するものではありません。かつ、その欠缺を補う必要もありません。たとえ残余の馬が死亡し、かつこれに子が生じてもこれで補う義務もありません。用益者は第53条により自由にこれを処分することができます。

 これに対して、畜群つまり集合物の上に用益権を設定した場合には、用益者はその全部を保存する義務を負うので、不可抗力や自己の過失等でその頭数を減じたときは、毎年生ずる子でその欠缺を補う責任を負います。

 また、第53条の用益者は、その用益物である畜類を用法に従って使用することができます。たとえ使用のためにだんだんと労疲させてもかまいません。これは第56条第1項の規定を類推して得られる説明です。そのため、用益権の消滅時に、返還すべき畜類が老衰して用をなさないものとなっていたとしても、用益者の用益権消滅の時の現状でこれを返還し、それにより責任を免れます。壮健な獣子があってもこれを返還する必要はありません。

 これに対して、本条の用益者は全群を保存する義務を負うので、群中に老衰したものがあり、それが目的の使用に耐えないものであれば、少壮の獣子をこれに代え、その老衰したものを売却その他自由に処分することができます。この用益者は全群を保存するという点から論ずれば、第53条の用益者よりその義務は重いものとなっていますが、その老衰した獣畜を自由に処分する点からみれば、権利は広いものとなっています。

  また第53条の場合には、その目的である獣畜が1頭死亡すれば、その1頭につき用益権もまた消滅しますが、第58条の場合には全群が死ぬのでなければ用益権は消滅しません。1頭でも残っている間は、用益権は存続するわけです。

 

273 略(論説)

*1:種類及び員数のみで定めた畜群の用益者は、保存を要しない部分を毎年処分することができる。ただし、その子をもって全数を保持しなければならない。