【日本民法】条文総まくり

旧民法から現行民法まで。1条ずつ追いかけます。

財産編第50条【果実①】

1 用益者カ収益ヲ始ムルコトヲ得ルヨリ以後ニ虚有者ノ収取シタル果実ハ用益者ニ属ス縦令用益者カ自ラ其収益ヲ遅延シタルモ亦同シ但其果実ノ収取及ヒ保存ノ費用ヲ虚有者ニ償還スルコトヲ要ス*1

 

2 用益者ハ収益ヲ始ムル時根枝ニ由リテ土地ニ付著スル果実ヲ其成熟ニ至リ収取スル権利ヲ有ス但耕耘、種子、栽培ノ費用ヲ虚有者ニ償還スルコトヲ要セス*2

 

【現行民法典対応規定】
なし

 

今村和郎=亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之一』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

238 用益権の主たる目的は、用益物を使用してこれより収益することにあります。前条には用益物の引渡請求について、本条以下には用益物からの収益、つまり果実の収取に関する規定が置かれています。

 果実には天然のものと法定のものとがあり、次条でこれを詳しく説明します。本条にいう果実とは、天然のものと法定のものとをあわせて指しています。

 

239 用益者はいつから果実を収取する権利を有するのでしょうか。これを明示することが必要で、本条がこれを規定しています。

 前条にもあるように、単純な契約で用益権を設定した場合、つまりこれに条件も期限も付さない場合には、契約が成立すると直ちに用益権が発生し、同時に用益者は収益をはじめることができます。停止条件を付した場合には、その条件が到来しない間用益権は発生しないので、収益を開始できないことも当然です。期限を付した場合には、契約の成立と同時に用益権は発生しますが、期限が到来しなければ収益を開始することができません。そのため、無条件無期限で用益権設定契約をした場合に限り、直ちに収益を開始することができます。遺言で用益権を設定した場合には、遺言者の死亡によって用益権が発生します。しかし、期限を設けた場合には、前に述べたようにその到来後でなければ収益することができません(フランスの遺贈法は遺言者の死亡後、受遺者から引渡請求をするまでは果実を受遺者に与えないこととしています。日本の遺贈法はこれをどうするでしょうか〔フランス民法1014条参照〕。)。

 用益者が用益物を占有しこれについて収益するには、第71条以下に規定するように、数個の義務を履行することが必要です。財産が多ければ、その履行のために数日を要することもあるでしょう。この間に虚有者が果実を収取したとしても、用益者が収益を開始することができる日より以後にしたものは、すべて用益者に属します。収益を開始することができる日より以後の果実は用益者の所有物だからです。虚有者が果実を収取した場合に、その収取・保存について費用を要することがあれば、用益者はこれを虚有者に賠償しなければなりません。

 用益者が収益を開始することができるようになって以後に虚有者が果実を収取した場合には、用益者はその現物を取り戻すことができます。つまり、回復の物上訴権を行使することができます。虚有者が現にこれを消費した場合、他人に譲渡した場合には、虚有者に対し、賠償の対人訴権を行使することができます(第12条第2号・第36条参照)。

 虚有者が善意で果実を収取した場合には、自ら利益を得た程度で返還する義務を負います。例えば、死亡者の用益権が遺贈されたことを知らずに相続人が果実を収取した場合がそれに当たります(第449条参照)。

 虚有者が費用を出して栽培した果実についても、まだ収取していない状態で用益者が収益を始めることができるようになった場合には、すべてこれを用益者に帰属させます。その栽培等の費用を虚有者に賠償する必要はありません。この規定は虚有者に不利のようにみえます。用益権は突然発生し突然消滅することがある性質のもので、それが発生すると用益者にとっては利益になるかのようですが、消滅の時には土地に付着する果実は消滅と同時に虚有者に帰属するので、これによって償われることになるというのがその理由です(第109条)。

 

240 要するに、用益者が収益を開始することができる以後には用益者は当然にその果実の所有者となるので、本条第1項の規定は必要ありません。特にそのただし書は、民法の原則からすれば当然のことを定めているにすぎません。

 

241242 略(論説)

*1:用益者が収益を開始することができる時より後に虚有者が収取した果実は、用益者が自らその収益を遅延したときであっても、用益者に帰属する。ただし、用益者は、その果実の収取及び保存の費用を虚有者に償還しなければならない。

*2:用益者は、収益を開始する時、根枝によって土地に付着する果実をそれが成熟した場合に収取する権利を有する。ただし、耕耘、種子、栽培の費用を虚有者に償還することを要しない。