【日本民法】条文総まくり

旧民法から現行民法まで。1条ずつ追いかけます。

財産編第7条【動産・不動産の区別】

物ハ其性質ニ因リ又ハ所有者ノ用方ニ因リ遷移スルコトヲ得ルト否トニ従ヒテ動産タリ不動産タリ此他法律ノ規定ニ因リテ動産タリ不動産タル物アリ*1

 

【現行民法典対応規定】

なし

 

今村和郎=亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之一』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

41 そもそも有体物の中には、一定のところにあって他に動かすことができないものがあります。例えば土地です。また、他に動かすことができるものもあります。例えば牛馬・器具です。動かすことができるものを「動産」といい、そうでないものを「不動産」といいます。

 そのため、同じ種類の物は、必ず不動産・動産のいずれかです。1つの物が動産と不動産という2つの性質を兼ね備えていることはありません。これに対し、民法は、同じ種類の物でも動産となったり、不動産となったりすることを認めています。この区別はただ物の自然の性質だけによるものではありません。もともと動かすことのできる性質の物でも、人の行為によりこれを動かすことができない物とする場合には、「性質による不動産」となることがあります。

 もともと動かすことができる性質の物で、これを用法に充てた場合には、たとえなお動かすことができる性質を有していても、これを不動産とすることがあります。これを「用法による不動産」といいます。人為的に動産に不動産の性質を与えた物と「用法による不動産」をと混同してはいけません。第9条でこれを説明します。

 一般に動産と不動産の区別は、純理論的には有体物についてだけ可能で、無体物はまたこれとは別になります。しかし、民法は、そうではなく、無体物でもこれを動産か不動産とします。そのため、民法上すべての物は動産でなければ必ず不動産であるということになります。その中間の物はありません。このように、民法が物の性質を離れて規定しているものを「法律の規定による動産・不動産」といいます。私は、この名称は日本民法がつけた名称の中でも優れたものであると思います。そもそも事物があってそのために法律を設けるのであり、法律で事物を作るわけではないことは立法の原則だからです。民法のような法律の規定による動産・不動産という場合には、法律が動産や不動産を作り出しているかのように思われてしまうきらいがあります。

 本条では、動産と不動産を大きく3種類に分けました。性質によるもの、用法によるもの、法律の規定によるものがそれです。

 

42 物を動産と不動産の2種に区分する理由はたくさんあります。古くは西洋でも動産を賤しいもの、不動産を貴いものとしていました。そのため、法律の保護は不動産に厚く、動産には薄いものでした。今日でもなおこの差別が残っています。例えば、フランス民法では、後見人が被後見人の有する不動産を譲渡するには種々の手続を必要としますが、その動産を譲渡するのに必要な手続については定めがありません。また、妻は不動産の譲渡については無能力で、動産の譲渡については能力があるとされています。

 しかし、今日では、動産は大いに増え、不動産に劣るものではありません。動産は不動産よりもかえって数倍も貴いこともあります。西洋でもなお動産を賤しいものと見る精神が法律上も存在するのはなぜでしょうか。これは西洋に残るある弊習によるものです。そもそも西洋では法律学者は1個の社会を形成し、法律以外のほとんどのことを省みず、そのため法律学には精通していても、専ら法律の条項に束縛され、目を転じて広く社会の法律以外の事物を察する余裕がある者が少ないのです。その社会の経済的な事物は日々進化しているのに、法律の進歩は停止してしまい、他の事物と大いにバランスを欠いていることがあります。卓見の士はもとよりこれを見抜いていますが、この考え方が実際に容易に実践されないのは、私も遺憾とするところです。

 

43 動産と不動産は、もともとその性質が異なるので、これを支配する法律もまた違うものにならざるえない場合があります。これがこの区別をする主な目的です。

 例えば、動産は迅速にこれを授受することができ、その上に存する権利の移転もまた非常に簡単です。そのため、動産の売買・譲渡は世の中で非常に頻繁になされています。その売買・譲渡のための規則を複雑なものにすれば、社会の流通を妨害することになります。また、種々の手続・規則を設けずとも、必ずしも大きな害はありません。不動産はそうではありません。一定の場所に付着するので、その授受は動産のように迅速にはいきません。その授受の規則を詳細にして権利の保護を容易にし、かつ、そうすることが必要です。

 また、動産には似たものが少なくありません。そのため、同種の物がある場合には、その所有権を争うことは非常に困難ですが、不動産はそうではありません。一定の場所に付着しているので、混じることもありません。

 動産はこれを所有する者の本国法に服し、不動産はその所在地の法律に服するのを原則とします。

 質には、不動産質と動産質の区別があります。また、不動産は抵当の目的物となりますが、動産はなりません。不動産に関する時効は数年の占有によって成立し、動産に関する時効は多くは即時に成立します。動産と不動産とでは、引渡しの方法も異なります。事業が民事か商事かを区別するのに、動産と不動産とによる分界が立てられています。裁判所の管轄は、訴訟が動産に関するものか不動産に関するものかで異なることがあります。以上が動産と不動産を区別する理由です(第346条以下・担保編第97条以下・同第116条以下・同第195条以下・証拠編第138条・同第144条・訴訟法第23条参照)。

 動産と不動産の区別は法律上非常に重要なので、以上のほかにも民法の各章にその理由を見出すことができます。そのほかについては以下で詳しく説明します。

*1:物は、その性質又は所有者の用方により遷移する否かに従って動産又は不動産とする。このほか、法律の規定により動産又は不動産とするものがある。