【日本民法】条文総まくり

旧民法から現行民法まで。1条ずつ追いかけます。

財産編第142条【賃借物の看守・保存の義務等】

1 賃借人ハ賃借物ノ看守及ヒ保存ニ付キ用益者ト同一ノ義務ヲ負担ス*1

 

2 第三者カ賃借物ニ侵奪又ハ作業ヲ為ストキハ賃借人ハ第九十六条ニ記載シタル如ク用益者ト同一ノ責ニ任ス*2

 

【現行民法典対応規定】

なし

 

亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之二』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

52 賃借人は、前条で説明したように、賃借物の元質本体を変ずることなくその用法・性質に従って使用し、賃貸借が終了する時に旧状のままでこれを返還すべき義務を負います。そのため、賃貸借が継続している期間内でもその物を看守・保存する責任を負うことは当然のことです。

 賃借人の権利は用益者の権利と同じであるのが原則です(第126条)。そのため、その義務も用益者の義務と同じでなければなりません。本条第1項・第2項の規定は、ともにこの原則を表明するものにすぎません。

*1:賃借人は、賃借物の看守及び保存について、用益者と同一の義務を負担する。

*2:三者が賃借物に侵奪又は作業をするときは、賃借人は、第96条に定めるように、用益者と同一の責任を負う。

財産編第141条【賃借物の用法】

1 賃借人ハ明示ト黙示トヲ問ハス合意ヲ以テ定メタル用方ニ従フニ非サレハ賃借物ヲ使用スルコトヲ得ス*1

 

2 其合意ナキトキハ契約ノ時ノ用方又ハ賃借物ノ性質ニ相応シテ毀損セサル用方ニ従フニ非サレハ之ヲ使用スルコトヲ得ス*2

 

【現行民法典対応規定】

616条 第594条第1項の規定は、賃貸借について準用する。

*594条1項 借主は、契約又はその目的物の性質によって定まった用法に従い、その物の使用及び収益をしなければならない。

 

亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之二』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

51 賃借人は、賃借物に権利を有しますが、その権利を行使するについて、賃借物の元質本体を変更することができません。賃貸借が終了する場合には、旧状のままでこれを返還する義務があるからです。そのため、その物を使用するには、明示・黙示の合意で定めた用法に従わなければなりません。その合意がない場合には、契約時の用法つまり所有者が当時依拠していた用法に従うべきで、この用法がない場合には、賃借物の性質に応じて適当な用法でこれを使用しなければなりません。

 合意で定めた用法に従わず、他の用法に従い、それにより損害を生じないのであれば、賃借人はその用法に従ってもよいのでしょうか。この疑問は、損害が結果的に生じなかった以上、他の用法に従うことを認めても妨げないと解釈すべきでしょうかというようなものです。しかし、合意は当事者間では法律と同一の効力を有するので、損害の有無にかかわらず、これに違反することを認めるべきではありません。そのため、賃借人とその家族の住居のために建物を賃貸したにもかかわらず、賃借人がこれをその住居に使用せず、物品貯蔵に用いたり、旅人宿や下宿に利用したりする場合には、それによりその建物を毀損することがなくても、賃貸人は合意違反を主張し、第139条に規定した権利を行使することができます。

*1:賃借人は、明示又は黙示の合意によって定めた用法に従わなければ、賃借物を使用することができない。

*2:前項の合意がない場合には、契約の時の用法又は賃借物の性質に応じて毀損しない用法に従わなければ、これを使用することができない。

財産編第140条【賃借物についての租税公課の負担】

1 賃借人ハ賃借物ニ直接ニ賦課セラルル通常及ヒ非常ノ租税其他ノ公課ヲ負担セス若シ租税法ニ依リテ賃借人ヨリ徴収スルコト有ルトキハ其借賃ヨリ之ヲ扣除シ又ハ賃貸人ヨリ賃借人ニ之ヲ償還ス但反対ノ合意アルトキハ此限ニ在ラス*1

 

2 然レトモ賃借人ノ築造シタル建物ニ賦課セラレ又ハ賃借不動産ニ於テ賃借人ノ営ム商業若クハ工業ニ賦課セラルル租税其他ノ公課ハ賃借人之ヲ負担ス*2

 

【現行民法典対応規定】

なし

 

亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之二』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

48 第89条によれば、用益物に賦課された通常の租税公課は用益者がこれを負担し、非常の公課や租税は用益者がその元本の利息を負担するだけで、元本は常に虚有者の負担に属するものとされています。法律は多くの点で賃借権を用益権とほとんど同一のものとしていますが、本条では、賃借人は通常の租税公課はもちろんのこと、非常の租税公課についても、まったく負担しないものと規定しています。このようにこの2つの間に差異があるのはどのような理由に基づくものでしょうか。

 用益権は無償または有償で設定することができるものですが、多くは無償で設定されます。有償の場合は、実に1000、100あるうちの1つ、2つでしょう。用益者は毎年の収益を独占し、虚有者は何らの報償も受けないので、租税公課は用益者にその全部を負担させたり、その元本の利息を負担させたりするのが当然です。これに対し、賃貸借は有償契約で、賃貸人はその賃貸物から毎年収益を挙げる、つまり賃料を得ます。そのため、自らその物を直接に使用する場合と同じく、租税公課を負担するのが正当です。これがそのような差異がある理由です。

 賃借人もまたその賃借物について収益を挙げるので、これに租税公課を分担させてもよい、むしろ全部負担させてもよいともいえます。そのように考えるならば、所有者に雇用されて労務に服する者もまたその物から収益つまり給料や賃金を得るので、これに租税公課を負担させてもよいということになってしまいます。賃借人が賃借する土地を耕作して収益を挙げるのは、雇用された者が賃金を得て、雇用者の土地を耕作するのとその実はほとんど同じです。そちらには租税公課を負担させず、こちらにはこれを負担させるとすれば、その幸不幸はどうでしょうか。それもこれもほとんど同じなので、法律は同じようにこれを待遇しなければなりません。そのため、私は上記の説には賛同できません。

 

49 前述のように、賃借人は、通常・非常、一般・地方を問わず、すべての租税公課を負担しないと規定されていますが、租税法で租税徴収の便宜から賃借人よりこれを徴収することとされた場合には、その特別の規則に従い、賃借人はこれを支払わなければなりません。しかし、賃借人にはもともと負担の義務がないので、賃借人がこれを支払うのは、賃貸人に代わって支払うということにほかなりません。そのため、その貸借から控除することができますし、特に償還を賃貸人に請求することもできます。

 以上の規定は、公の秩序や善良の風俗に関するものではありません。そのため、当事者は合意でこの規定に反する合意をすることができます。つまり、租税公課の全部を賃借人が負担することとしても、その通常のものだけを賃借人に負担させることとしても、平等に分担することとしてもかまいません。

 しかし、この合意は当事者の間で有効なだけで、これを第三者に対抗することはできません。そのため、賃借人に負担させる合意がある場合にも、政府は賃貸人より租税公課を徴収することができます。賃貸人にはこれを拒む権利はなく、ただその徴収に応じた上で、賃借人に対して償還を請求することができるだけです。

 

50 第133条に規定するように、賃借人は現在の建物に変更を加えなければ、適宜に建物を築造することができます。この賃借人の築造した建物に賦課される租税公課は、賃借人がこれを負担しなければなりません。賃借人はその建物につき別に賃料を支払わずに収益を挙げ、賃貸人はそのために報償を受けることがないからです。

 また、賃借不動産で賃借人が営む商業や工業に賦課される租税公課は、賃借物に賦課されるものではなく、営業者自身に賦課されるものです。賃貸人も賃借人の営業のために報償を受けることがないので、これを賃貸人に負担させるべき論理はありません。そのため、この租税公課はまた賃借人がこれを負担しなければなりません。

*1:賃借人は、賃借物に直接に賦課される通常及び非常の租税その他の公課を負担しない。租税法によって、賃借人より徴収することがあるときは、その賃料よりこれを控除し、又は賃貸人より賃借人にこれを償還する。ただし、反対の合意があるときは、この限りでない。

*2:前項の規定にかかわらず、賃借人が築造した建物に賦課され、又は賃借不動産において賃借人の営む商業若しくは工業に賦課される租税その他の公課は、賃借人がこれを負担する。

財産編第139条【賃貸人による履行の強制等】

賃借人借賃ヲ払ハス其他賃貸借ノ特別ナル項目又ハ条件ヲ履行セサルトキハ賃貸人ハ賃借人ニ対シテ其履行ヲ強要シ又ハ損害アルトキハ其賠償ヲ得テ賃貸借ノ解除ヲ請求スルコトヲ得*1

 

【現行民法典対応規定】

なし

 

亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之二』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

47 賃借人が前条に規定した期日に賃料を支払わないのは、その義務に違反するものです。これには制裁が必要です。本条はこの制裁を規定したものです。

 賃借人がその義務に違反するのは、ただ賃料を支払わないということだけにとどまりません。賃貸借契約では、賃借人に保証人を立てることなどといった責任を負わせることがあったり、あることをしない義務を約したりすることがあります。こうした場合に、賃借人がすべきことをしなかったり、してはならないことをしたりしたときは、その義務に違反するので、同じく制裁を免れることはできません。

 本条には賃借人が受けるべき制裁が2つ挙げられています。「義務履行の強制」と「賃貸借の解除」です。

 ① 義務履行の強制 賃借人の義務が普通は債務者の義務と異ならないことは第118条に「賃貸借契約は有償かつ双務契約の一般の規則に従う」とあることから明らかです。そのため、賃借人がその義務を履行しない場合には、契約の一般の規則である第382条に従い、賃貸人からその履行を強制することができるのは当然です。

 ② 賃貸借の解除 前掲第118条が示すように、賃貸借契約は双務契約の規則に従います。そして、双務契約には一方の義務不履行の場合には常に解除条件を包含するものとされています(第421条)。そのため、賃貸人はこの規則に従い、解除を請求することができます。

 以上2つの制裁のうちいずれかを選択するかは賃貸人の自由です。ただし、義務の履行を強制することができない場合、つまり賃借人の身体を拘束しなければ履行させることができないような場合には、第2の制裁を用いるほかに方法はありません。

 賃貸借を解除する場合に、別に損害があるときは、なおその賠償を請求することができます。法文に「損害があるときはその賠償を得て」とあるのは、このことを示したものです。そのため、賃借物の毀損はもちろん、解除のため新たに賃借人を探す間その物を空しくそのままにしておき、そのため得ることができた利益を失った場合には、賠償を請求することができます。

 義務の履行を強制する場合にも、本条に明文はありませんが、損害があればその賠償を請求することができます。第382条第5項に「損害があるときは、その賠償をさせることを妨げない」とあり、この規則は義務の効力に関する一般の規則だからです。

*1:賃借人が、賃料を支払わず、その他賃貸借の特別な項目又は条件を履行しないときは、賃貸人は、賃借人に対して、その履行を強制することができる。賃借人に損害があるときは、その賠償を得て、賃貸借の解除を請求することができる。

財産編第138条【賃料の支払時期】

1 金銭ヲ以テ借賃ト為シタルトキハ賃借人ハ合意シタル時期ニ之ヲ払ヒ合意ナキトキハ毎月末ニ之ヲ払フコトヲ要ス但地方ノ慣習之ニ異ナルトキハ此限ニ在ラス*1

 

2 果実ヲ以テ借賃ト為シタルトキハ収穫後ニ非サレハ之ヲ要求スルコトヲ得ス*2

 

【現行民法典対応規定】

614条 賃料は、動産、建物及び宅地については毎月末に、その他の土地については毎年末に、支払わなければならない。ただし、収穫の季節があるものについては、その季節の後に遅滞なく支払わなければならない。

 

亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之二』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

46 賃料を払うのは賃借人の主たる義務です。この義務はいつこれを履行させるべきでしょうか。これがまさに本条の規定するところです。

 本条は、金銭を賃料とした場合と果実を賃料とした場合とを区別し、それぞれの場合で義務を履行すべき時期を指示しています。

 ① 金銭を賃料とした場合 この場合に合意で時期を定めたときは、その時期に支払わなければなりません。これは当然のことで、説明するまでもありません。合意であらかじめこれを定めていない場合には、毎月末に支払わなければならないものとしています。わが国の普通の慣習を採用したからでしょう。しかし、地方によっては、3か月ごとに支払うとする場合や、半年(盆・暮れの2期とする類)ごとに支払う慣習がある場合もあります。そのため、このような慣習がある地方ではその慣習に従います。

 ② 果実を賃料とした場合 この場合には、その果実の収穫後でなければ賃料を請求することができないものとしています。その収穫前に賃借人は耕作・播種・肥料等の費用を必要としてもまだ少しの収益も得ていないので、将来の収益のためにその費用を負担させるべき論理がないだけでなく、事実上まだ収穫していない果実を支払わせることはできないからです。

*1:金銭を賃料としたときは、賃借人は、合意した時期にこれを支払い、合意がないときは、毎月末にこれを支払わなければならない。地方の慣習がこれと異なるものであるときは、この限りでない。

*2:果実を賃料としたときは、収穫後でなければこれを請求することができない。

財産編第137条【賃借物の目録又は形状書の作成】

第3款 賃借人の義務

 

1 賃貸人其権利ヲ保存スル為メ賃貸物ノ目録又ハ形状書ヲ作ラント欲スルトキハ賃借人ハ何時ニテモ賃貸人カ己レト立会ヒテ之ヲ作ルヲ許諾スルコトヲ要ス但其書類ノ費用ヲ分担セス*1

 

2 賃借人モ亦賃貸人ヲ召喚シ立会ノ上自費ニテ右目録又ハ形状書ヲ作ルコトヲ得*2

 

3 形状書ヲ作ラサリシトキハ賃借人ハ修繕完好ノ形状ニテ賃借物ヲ受取リタリトノ推定ヲ受ク但反対ノ証拠アルトキハ此限ニ在ラス*3

 

4 目録ナキトキハ動産ノ実体及ヒ形状ノ証拠ハ賃貸人ノ責ニ帰シ通常ノ方法ニ従ヒテ之ヲ為ス*4

 

【現行民法典対応規定】

 

亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之二』(明治23年)

 

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

44 特別の契約がある場合のほか、賃借人はその賃借物の目録・形状書を作成する責任を負わないことは第127条に規定されています。しかし、賃借物が動産の場合にはその目録を、不動産の場合にはその形状書を作成し、その種類・品質・その他諸般の模様を記載しておくのは、賃貸人・賃借人双方のために大いに利益があります。他日紛争が生じた場合にはこれを証拠とすることができるからです。そのため、賃貸人がこれを作成しようとする場合には賃借人はこれに立ち会わなければならず、賃借人がこれを作成しようとする場合には、賃貸人はこれに立ち会わなければなりません。法律はこの立会いの義務を双方に負わせています。なぜなら、賃貸人か賃借人が1人で作ったものを証拠とするわけにはいかないからです。相手方がこれに立ち会って、その目録・形状書に署名捺印してはじめてその相手方に対する証拠としての効力を生ずるので、立会いの請求があればこれを許諾しなければならないと定めたわけです。

 本条第1項・第2項ともに同じようなことを規定していますが、その法文には違いがあります。第1項は、賃貸人について「賃借人はいつでも賃貸人が自らと立ち会ってこれを作成することを許諾しなければならない」とし、第2項では、賃借人について「賃貸人を召喚し、その立会いの上で云々」とされています。賃借物を引き渡した後は、その物は賃借人の手に移るので、賃貸人がその目録・形状書を作成しようとする場合には、賃借人が占有する土地・建物の中に入らなければなりません。そのため、賃借人がこれを拒否して入れない場合には、これを作成しようとしてもできません。法律は、賃貸人がその土地・建物の中に入ることも賃借人は許諾しなければならないということを示すために、第1項にこのような規定を置いたのです。また、賃借人が目録・形状書を作成するには、賃貸人を賃借物の所在後に招かなければならないので、第2項で賃貸人を召喚する権利があることを示したわけです。

 賃貸人が目録・形状書を作成する場合も、賃借人がこれを作成する場合も、いずれも単に自分の利益のためにするものです。そのため、これを作成するのに費用を要することがあっても、自分1人で負担すべきであり、決して相手方に分担させることはできません。

 

45 前段で説明したように、目録・形状書を作成するのは賃借人の義務ではなく、賃貸人と賃借人の権能にすぎません。そのため、これを作成しないことがあっても、それにより不利益をこれらに不利益を及ぼすべきではないといえます。そこで、第3項は「形状書を作成しない場合には、賃借人は修繕完全の形状で賃借物を受け取ったという推定を受ける」と規定し、目録・形状書を作成する義務がある用益者がその義務を履行しない場合(第75条)と同じように賃借人を待遇します。しかし、法律がこの推定をしたことには理由がないわけではありません。賃借人は第128条により物の引渡し前にその要望に従って一切の修繕を整えることを賃貸人に請求する権利があるので、その物が完全な形状でない場合にはその修繕を要求することができ、そうでなければ、形状書を作成してその不完全の証拠を保存すべきです。形状書を作成せず修繕も請求しない場合には、その物が完全な形状にあったためにそうしたのだと認めるのが相当です。これがこの法律上の推定の理由です。しかし、この推定は完全なものではなく軽易なもので、そのため、賃借人はすべての使用方法によってそのものの完全ではなかったことを証明することができます。

 動産について、その目録を作成しなかった場合にはどうでしょうか。第4項には「目録がない場合には、動産の実態・形状の証拠は、賃貸人の責めに帰する云々」とあります。そのため、不動産の形状書を作成しない場合とは異なり、賃借人はその動産の目録を作成しなくとも、そのために不利益を受けることはなく、かえって賃貸人にその実態はどうだったかその形状はどうだったかということを証明しなければならないこととしています。その証明をできない場合には、返還を受けるときの形状でその物を賃貸したとの推定を受けることになります。動産は使用によって品質が低下しやすく、完全であるものは多くはないからです。

 賃貸人が動産の実態・形状を証明するには、通常の証拠方法に従わなければなりません。そのため、第75条第2項に規定するように世評でこれを証明することはできません。世評は証拠としてみだりに許すべきものではないからです。いたずらに争訟を惹起するおそれがあるというのがその理由です。

 賃貸人がこの不利益を避けたいのであれば、法律が与えた権能を行使し、あらかじめ目録を作っておくほうが得策です。

*1:賃貸人がその権利を保存するために賃貸物の目録又は形状書を作成しようとするときは、賃借人はいつでも賃貸人が自己と立ち会ってこれを作成することを許諾しなければならない。ただし、その書類の費用は分担しない。

*2:賃借人は、賃貸人を召喚し、立会いの上、自費にて賃借物の目録又は形状書を作成することができる。

*3:形状書を作成しないときは、賃借人は修繕完全の形状にて賃借物を受け取ったものと推定する。ただし、反対の証拠があるときは、この限りでない。

*4:目録がないときは、動産の実体及び形状の証拠は、賃貸人の責めに帰し、通常の方法に従ってこれをするものとする。

財産編第136条【賃借人による訴権の行使】

賃借人ハ其権利ヲ保存スル為メ賃貸人及ヒ第三者ニ対シテ第六十七条ニ記載シタル訴権ヲ行フコトヲ得*1

 

【現行民法典対応規定】

なし

 

亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之二』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

43 賃借人の権利は用益者の権利と同じというのが原則です(第126条)。そのため、本条の明文がなくとも、賃借人は第67条によりその賃借権に関する占有・本権の物上訴権を行使することができ、またその権利の範囲内で賃借不動産の働方・受方の地役について、要請・拒却の訴権を行使することができます。ただそのことは第三者に関係し、しかも重要な訴権なので、特にこの明文を掲げてその権利を確認したにすぎません。

 上の訴権については、第67条以下で既に詳細な解説を行いましたので、ここでは繰り返しません。

*1:賃借人は、その権利を保存するために、賃貸人及び第三者に対し、第67条に定める訴権を行使することができる。